向日葵の少女・中(レムレス)


「……へえ、もうそんなになるんだ」
「ええ。永い時間を掛けて少しずつ、ある意味私だからこそできることね」
「じゃあ、やっぱりキミは人間じゃないんだ」
「残念ながら」
「へえ」

彼は本当に物好きだ。こんな私にまで優しく話しかけてくるなんて。
さっさと帰ってほしい。私と向日葵だけの時間を返して頂戴。最初は言いたかったのに、段々もっと外の世界のことが知りたくなってくる。
他の世界のことはある程度なら知っている、でもこの世界の向日葵畑の外には一歩も出たことが無い。だから典型的なイメージばかりしかもっていなかった。
でもそれは違った。
彼の話の内容はどれも私の思っていたものよりとても魅力的で、面白くて。
ああ、私は自分の世界のことしか知らなかったのか。そう改めて思わざるを得なかった。

「……ねえ」
「何?」

ふと、レムレスが足を止める。
私も彼の顔を見たまま、少し進んだ状態で立ち止まった。

「向日葵、ってことは夏にしか咲かないんだよね」
「ええ」
「それなら、夏以外の季節は何処に居るの?」
「……」

それは、禁句だった。
こんな時にその話題が出るなんて、私の鼓動がドクンと一瞬だけ大きくなる。

「他の世界に行くの。渡り鳥のように」
「他の世界って、何処?」
「……っ、」

他の世界、それは大好きな向日葵に囲まれた場所でも、他の花に囲まれた場所でもない。
――無。その字こそそれの形容に相応しい。
此処の向日葵が咲き終わる事、私の身体は段々と壊れていく。そして、秋になる頃にはその世界へ。
寂しい、黒い、その世界に私は一人。
……正直に言えば、向日葵畑を誰も居ない場所に作ったのは人恋しくなって狂うのを防ぐためだ。
このことを言ってしまえば、きっと彼は。
でも。
答えに迷う。私はどうすればいいのだろう。

「……ごめんなさい、それは言えないわ」

一言、選んだ答えは隠滅。でも勿論それで彼が納得してくれる訳も無く。

「ナマエ、僕はもっとナマエのことが知りたいんだ」
「……でも、」
「教えてくれないかな、キミの全てを」

ああ、この人はもう私を理解しきっている。目は閉ざされて見えないけれど、きっとそうだ。
私が人と会うのが嫌いな理由も、私が本当は弱いということも。
……まさか、こんな人に出会ってしまうなんてね。

「分かった、全て話すわ」

諦めてそう言うと、彼はまた微笑んだ。

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