切り取れ(あやクル)


ぎゅっと握られた手は、とても温かかった。それは多分、奴が『紅』だったからだろう。
彼は私に「好きだ」と言った。だから温かかったんだ。でも私は断った。その手は冷たくなった。白い雫に触れて。
今握られた手も、最初は温かかった。でも、今は。
……時々、雫が滴ってくる。これは、何。

「……ご、めん、ね」
「ナマエ、そんなに泣くなよ」

クルーク。そう、今の彼はいつものナルシストの方だ。
私はそれに振られたんだ。たった今、この場で。
おかしい、目の前が滲んでよく見えない。彼の顔も、握られた手も。

「今はまだ、友達のままで居させて」
「……」

彼の声に、黙ってこくりと頷く。
その中に『今両想いになってしまってはボクが壊れてしまう』という戸惑いが隠れていたことには、私は気付けなかった。
だから。



「……何」
「お前も、同じだな」
「何が」
「この者に振られたのだろう?」

今のクルークは、いつものじゃない。それは紅い瞳をしていて、まるで狼のようだった。
あやクル。これが彼の名前だ。
あやクルは私に肩と肩でぴったりとくっつき、後ろで指先をゆっくりと絡める。
どうしてだろう、こんなに安心するのは。……彼の身体だから?
でもあやクルはクルークじゃない。振る舞いもだいぶ違うし、気を抜くとすぐに取り込まれてしまいそうな何かがある。
それでも、なんでこんなに。

「私を愛してみないか」
「なんでいきなり、」
「私はこの者と同じ身体を共有する。最初は私をこの者だと思っていればいい」

私は首を横に振る。違う。絶対に違う。
彼は彼であり、あいつはあいつ。彼は確かにクルークだ。でもクルークではない。

「私の誘いを断るか。……まあいい、貴様の心程度簡単に奪える」
「え、」

でも彼は諦めてくれなかった。
絡められていない、もう片方の手で私の頭に手を乗せる。
そしたら、すぐに意識が落ち、て


「後悔するがいい、自分の本意を伝えなかった事を」

彼は青い魂の浮かぶ本に向かい、勝ち誇った声で囁いた。
これでもう、邪魔者は居ない。


……………………
クルークにNDKがしたかった

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