ある日の通学路。いやリアルタイムだけど。
外の世界の話で一通り盛り上がった後、気付けば私達は謎の沈黙の中に押し込まれていた。
面子は左から自転車を押すクルーク、私、そしてアミティ。ああなんて隙の無い構造。
私的には左のやつが余分なんだけど。
そんな無言の重たーい空気の中、いきなり彼――クルークが、奇声を発した。
「ヒャッホーウ!」
「「!?」」
何。今の何。
アミティと私はほぼ同時にクルークの方を見た。
対するクルークは前を向いたまま、だがしかしいい笑顔である。
どういうことなの。
「……あのー、クルークさん」
「なんだい?」
「今の奇声は一体なんでしょう」
「決まってるじゃないか。言いたかっただけだよ」
「えー」
言いたかっただけ、でそんな奇声が出るのだろうか。
通学路、しかもこの人通りの多い時間帯で実際周りに人が多いのに何言ってるんだこいつ。
取り敢えずこのまままた沈黙に戻っても困るので、少し話を広げてみる。
といっても、この人と話すと大体決まった方向に行く訳だけど。
「あのさあクルーク、なんで言いたかっただけでそんな奇声が上がるのさ」
「テンションを上げるためさ」
「テンション……?」
驚いた。こいつにテンションなんてステータスが存在したんだ。
こいつの場合いつもうひゃうひゃ笑ってるか真面目(そう)に本を読んでいるかの二択なのに。
引くわー。テンション高いクルークとかマジ引くわー。
きっといつもより多く笑ってるんだろうね。ああなんてやかましいのでしょう
「テンションなんて上げなくてもいいでしょ……こんな時に」
「いや、だってボクのテンションは基本的に池袋から水道橋までを行ったり来たりしてるからね」
「は?」
返されたのは支離滅裂な答え。
私は呆気にとられるしかなかった。
どういうこと?なんでいきなり外の世界の話?
そして基準地点はどこ?
「というか随分遠いところ走ってるね」
「あれ、そうでもないよ?例えばナマエの家からなら京浜東「おいやめろそれ以上は言うな」分くらいかな」
ちなみに今路線とか色々を言ってたのはクルークではなくアミティだ。
ねえ、私だけ取り残されてる気がするのは気のせいじゃないよね?
「あのねえキミ、ボクを何だと思っているんだい?このオトナなクルーク様が常にテンションを高く出来るわけないじゃないか」
「でもその代わり調整効く筈なんだけど」
「う……いいんだ、ボクはクールで知的な魔導師だからね!」
なんたる言い訳。それでいいのかクルークさん。
いいや、なんか突っ込みどころ大量にあるけどあえてしないでおこう。面白いし
「まあ、そんな感じでいつも中途半端で低いのさ。いつかは香川や高知の方まで行きたいね!」
「遠。なんで九州と四国?」
「憧れの地だからだよ」
また、話が遠くへブッ飛んでいく。
憧れの地か……でもそれテンションが高くなるっていうより遠くなりそうな気がするんだけど。
でもクルークの瞳がいつもより一段と輝いて見えたのでそっとしておこう。
「ま、そういう訳でボクもいつかはテンションをあげたいところだね」
「へー……あ」
なんか結局無駄な話だった気がする。気にしちゃダメか。
溜息を吐こうとクルークから正面に視線を動かした直後、目の前の信号が青になった。
こいつの家と私達が向かう方向は逆、余った時間でいじってやろうかと思ったけどどうやら時間切れらしい。
「じゃ、ボクはこれで」
「じゃーねー」
彼が去っていくのを見届ける。そういえば隣にアミティが居るの忘れてた。ごめんね。
彼女もクルークを見送った後、ふと私の方を見て言った。
「ナマエ、ナマエはライブハウスとか行かない方がいいと思うよ」
「なんでそんな話?」
「だって『ヒャッホーウ!』って言われたら『イェーイ!』って言わなきゃいけないのに冷静に対処しすぎだよ。テンション低い」
「……」
なんで私の周りってこんな人達ばっかりなんだろう。
…………………………
今日の通学路での下らない話。
ちなみに○の人は埼玉在住です。高知遠い
(39/62)
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