月に叢雲、花に風(クルーク)


「起きろ!起きろよナマエ!」
――起きろ、ナマエ。もう時間だ

夢と現のあわいで、二つの景色が交差する。
紅く見えたその彼は、すぐに紫色に変わった。
……クルーク。

「ん……」
「全く、なんでこのボクがキミなんかをいちいち起こさなきゃいけないんだよ!?」

なんで、だろうね。
まだぼやけている頭で今の状況をなんとか理解しようともがいてみる。
特に意味は無かった。

得られた答えも、彼の声も。

「……なんだ、今日は随分大人しいね」
「なんだろ……頭痛い」

それは、久々に見た夢だった。
あやしいクルーク、もといあや様だのあやクルだのと呼ばれた彼の夢。
紅のマントをはためかせながら、彼は私に囁く。
『あいつになど渡しはしない』
あいつとは誰なのか。
それは分からないけれど、ただ苦しそうな顔をしていたのは覚えている。
そして、強引に抱きしめられる。
大体その直前で彼は夢の終わりを悟ってしまうんだ。
今日もそこで夢は終わってしまった。
これは大体、というか普通に全てクルークのせいだ。
でもだからといって彼を責めるわけにはいかない。
あれは夢、今は現。
しっかり区別をしないと、その強固で曖昧な境界が崩れてしまう。
それに私はクルークに頼んで起こして貰っているんだ。
文句なんて言える筈が無い。

「ナマエ、今の話聞いてた?」
「あ、ごめん全く聞いてなかった」
「っ……ボーっとする気持ちは分かるけどせめてこれくらい聞けよ」
「はーい」

適当な返事をすると、彼はご丁寧に話を最初からし直してくれた。
といっても、八割方自慢話なんだけどさ。
正直聞く意味無いだろ、そう思いながら適当に頷いておく。
時々質問なんかしてやると喜ぶけど、残念ながら今の私は本気で頭が働いていない。
駄目だ、こんなんじゃベッドから降りられない。すごい感覚がふわふわしてる。
こう、まだ夢を見ているような、なんというか……

「……ナマエ」
「ほ?」

ふと、クルークに名前を呼ばれる。
ベッドに腰掛けたまま彼の顔を見上げると、彼は赤い顔をしていた。

「ナマエは……すっ、好きな人……って居るかい?」
「はあ?」

思わず変な声が出る。
珍しいね、クルークがいきなりそんな話題出してくるなんて。
……でも好きな人か。
んー……微妙。

「居ないと言えば居ないし、居るといえば居る、かな」
「なんだよそれ……ハッキリしないのか?」
「それが何とも言えないんだよねー」

苦笑する私を見て、クルークは溜息を吐く。
何?そんなに期待外れだったの?

「……どういうことだよ」
「なんというか、激しく好き!って訳じゃないけど常に傍に居てくれないと苦しいかな、って奴が一人」
「それ、ただの友達じゃないか?いいかい?ボクが聞いているのは……」
「分かってる。でもただの友達かっていうとちょっと違う。こう、愛しいというかなんというか」

上手い例えが思い浮かばず、もどかしい気持ちになる。
ボキャブラリーが足りないって辛い。

「へえ。まあつまり一応は居るってことで間違いないのかい?」
「多分ね」

段々と意識が冴えてきた。
けど、やっぱり思考は曖昧だ。
体全体の感覚も、誰かさんに対しての想いも。
けど、まあそれでいいかな。
曖昧って好きだし。

クルークは何も言わず、ただ悲しいとも嬉しいともとれる微笑みを零した。
ああ、なんだかんだ言って私も依存させられてるんだね。


……………………
タイトル関係無かった。
本当ならWクルークで取り合いみたいな切甘にしようとしたんですが……
無理だった。作者の気分がふわふわしてたので雰囲気もふわふわです。
でも切甘書きたい、割と切実に。
もしかしたらそのうち+αリンクがどこかに設置されるかもしれない

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