第四章「バチと書いてバトンと読む」


それから数時間が経過した後、きせのんと私が休憩していたところに大きな声が響く。

「見つけたドン!」

 叫んだのはたかしだった。しかしここで問題点が一つ、その手掛かりを見に行くにも奴がどこにいるのか分からない。

「まいったな、たかしのところまで行くにも行けないよ」
「湖の周りをずーっと走っていけばいつかは辿り着くドン」
「そうはいっても、この湖どんだけ広いことやら……」

 きせのんは足が速いし、最悪このまま猛ダッシュしてしまえば確かにいつかは辿り着けると思う。でも今度は戦犯どらの居場所が分からなくなりそうだしぶつかったら困るし……ってちょっと待って。そういえば戦犯どらたちもどこに居るのか分からない!

「うわー、どうしようこれ」
「とにかく先に進むしかないドン!」

 じれったいと言わんばかりにつぶやくと、きせのんは強引に私を上に載せて先ほどと同じく走り出す。危ない。

「間違っても湖にダイブとかやめてよ?」
「大丈夫だドン、多分」

 すっごく大丈夫じゃないです、主に精神的に。
 しかしきせのんの走行技術は予想に反して非常に高く、少し意識が朦朧とし始めるころにはたかしの姿が目の前にあった。……乗ってる人には優しくないけどね。

「たかし、何を見つけたんだドン?」
「きょーじゅのマイバチだドン」

 フラフラになりながらきせのんから降り、たかしの持っているものを確認する。確かにそれは、教授が和太鼓教室と兼用で使っていたあのバチだった。

「きっと、きょーじゅはここで戦っていたんだドン」
「あいつのことだから多分そうだと思う。無茶するよ本当に……」

 言いながら、教授の言動や姿勢を思い出していく。元々お人好しな性格だったし、他人のために自己犠牲を払うことも多々あったっけか。

「他には何か見つけたドン?」
「……何も見つからなかったドン」

たかしはそう言って空を見上げる。――霧の中であっても光は分散されるようで、うっすらと紅い色が見えた。

「きょーじゅ、本当にどこへ行ったんだドン?」
「それは誰にも分からないドン。でも大丈夫、信じていればきっと見つかるドン!」
「教授の無駄な強運は信じるべきだよ。いずれひょっこり出てくるって」
「二人とも……」

 泣き出すたかし。ぼやけた夕焼け空の下、切ない気持ちになるのは誰だって同じだ。こんな状況ならば、特に。

「たかし、そろそろ帰った方がよさそうっだドン。夜になったらもっと視界が悪くなるドン?」
「でも……分かったドン。今日はもう帰るドン」

 たかしは「これはせーとに持たせておくドン」と言って教授のバチを私に差し出した。丁度そのタイミングで、遠くから声が聞こえてくる。

「きせのん!たかしー!ぱんどら家の前に集合なー!」

 戦犯どらもどうやら同じことを考えていたようで、私たちも霧の中を抜けるため湖と反対方向へ向けて走り始める。

 ところで、ぱんどらの家ってどこ?



「お邪魔しま……す?」
「お、やっときたか。待ってたぞ」

 数分後、もはやお約束な感じで見事なまでに乗り物(太鼓)酔いした私はふらふらになりながらぱんどらの家へログインした。勿論たかしときせのんも一緒に。

「わー、すごい大所帯」

 太鼓三つと人間が二人。明らかに比がおかしいのはもはや気にしてはいけないのだろう。

「取り敢えず俺の家が森に一番近いからここに集まったが、特に話すことはない。強いて言うなら明日は湖以外の捜索に入るから今のうちに寝ておけ」

 戦犯どらはそう言って部屋の端で畳まれていた布団を敷き、速やかに睡眠の準備に入った。ぱんどらもそのすぐ近くで横たわっている。

「あ、そういや今日は人間がいるのか。二階に客間があるからそこ使っていいよ」
「了解で……先輩階段が無いです」
「作れ」
「えっ」

 「天井をよく見てみろ」と言われて見上げると、何故か太鼓が通れる程度の穴が開いているのが見えた。あと、少し前まで階段があったらしき痕跡(壁の穴)。

「基本二階使わないからさ。ちょっと前に階段に使ってた木材分解してバチにしたんだ」
「なにそれこわい」

いやーまさかこんなタイミングで必要になるとはね、と戦犯どらは笑いながら言った。何なんだこの人は。

「要は私に上がるなって言ってるようなもんですよね、それ」
「確かに客間上にあったら意味ないな」
 
辺りを見渡してみるにも、高いところに届きそうなアイテムは見つからない。仕方なく私は近くの壁に寄りかかり、そのまま倒れこんだ。

「悪いな、毛布ならクローゼットに入ってるから使ってくれ」
「……はい」

 クローゼットはちょうど私が寄りかかった壁のすぐ近くにあり、毛布だけは容易に入手することができた。
 でも太鼓界普通にあったかいんだよね。それこそ薄い布団で過ごせるレベルで。

「じゃ、電気のスイッチは俺が消すから」
「了解です。おやすみなさい」

 瞬間的に消える明かり。私はそれを確認すると、即座に毛布に潜り込んだ。……あっつい。


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