第二章「バチと書いて武器と読む」


 冗談だ、と戦犯どらは笑う。なんというか一瞬教授と被る何かを感じたのは気のせい?

「しかし太鼓界は本当にゲームの中の世界、要するに二次元だ。ここに住む太鼓は大体ドンだーさんの分身で、それぞれある程度の個性と能力を持ってる。例えば俺のは時間を止められたりとか」

 個性は持ち主に基本似る感じかな、そう言いながら戦犯どらは鞄の中からマイバチを取り出す。

「で、次。太鼓界に来た人間は必ずバチを持つ。きせのん氏も持ってるはずだからバッグの中漁ってみな」

 戦犯どらはバチをバトンのように回しながら言う。試しにバッグを漁ってみると、確かに学校へ持って行っていなかったはずなのにバチが見つかった。
 ……いや、ちょっと待て。よく考えたら私が今持ってる鞄は通学用のリュックじゃない!ショルダーバッグだ!ってかよく見りゃ服装も私服だ!

「え!?ちょ……ええ!?」
「もしかしなくても気付いてなかったんだな、その反応。次元が変わるときに不思議な力によって服装と装備が変わるんだ」

 戦犯どらは笑い声を殺しながら言う。なんというかすっごくご都合主義な設定だね!メタァ!

「と、取り敢えず話を戻してください、先輩!」
「そうだな。取り敢えずそのバチにはい色々と特殊な力が備わっている。普通に太鼓を叩けるのは勿論のこと」

 急に戦犯どらの笑顔が消え、バチに力が集中していくような不思議な熱を感じた。……いや、それだけじゃない。先輩のバチはその熱の中で輝きながら少しずつ形を変えて――

「このように、武器にもなる」
「どこのRPGですか」

 驚きすぎてもはや冷静に突っ込んじゃったよ。
 左手に握られていたバチは、何故か太刀に姿を変えていた。先輩に言われて試しに触れてみたけれど、確かにそれは木の質感ではない。
しかし私のバチもこんな風に武器にできるのか。一瞬純粋に喜んだけれど、すぐにツッコミのとき以上に冷静な思考が脳裏に流れ込んできた。
 これってつまり、戦わなきゃいけないってことじゃないの?

「あのー、先輩。これってもしかしなくても戦うための道具ですよね?」
「武器だからね」
「こんな平和な世界に武器なんて作っちゃダメだと思うんですけど」

 先輩は「そういうものだ」と言って今度は太刀でバトン回しを始めた。思いっきり鞘取れそうで怖いんだけど大丈夫なのか。

「でも、平和じゃないからこういう事態になってるんだろ?確かにこの街は平和だが、森とかどっか別の場所に出れば未知の生物しか居ない」

 言われて気付く。そうだね人攫いするようなものに手持ち無沙汰で挑んだら意味ないわ。

「さ、きせのんもやってみな。バチに力を集めていくことを意識して」
「はい……」

 あまり気は進まないけれど、教授を助けるためならば。私は左手に持ったバチに静かに力を流し始めた。

「おお、うまいうまい」

 感覚は面白いぐらいしっかり掴めていて、まるで最初からその方法を知っていたかのように容易くバチの形状を変えていく。やがて光に包まれたのち手に持っていたのは――槍。

「飛び道具……これに乗ってどこか飛んでいくんですね」
「俺の知ってる槍じゃないよそれ」

 試しに何度か素振りしてみる。家の壁を突き破りかねないいので投げたりはしないけれど、それなりに軽くて使いやすいのは確かだと思う。

「やっと準備ができたドン!」

 とか言ってる間にきせのん登場、どうやら三人(三つ?)の会話が終わったらしい。戦犯どらと私は武器をバチに戻してバッグに仕舞う。戻すときは意思で一瞬のようだ。

「じゃ、ひとまず森に行くか。一刻も早くたかしを助けに行かないとな」
「そうですね。あいつが死んだり惨事に遭う前に」
「もう遭ってるけどな」

 僕たちも居るドン、と奥から出てきたたかし(太鼓)。どうやら立ち直ってくれたようだ。

「僕も連れていってくれるカッ?きょーじゅが心配だドン」
「勿論、むしろ来て」

喜ぶたかしを後目に、戦犯どらは「早くいくぞ」と言ってぱんどらに乗った。……え、太鼓って乗り物じゃないよね?

「キミも僕の上に乗るドン!その方が早いドン」
「う、うん」

 しかし恐る恐る乗ってみると案外滑りにくい造りになっていて安心。いや、私のことだからどっかで落ちる気しかしないけど。

「それじゃあ、きょーじゅを助けに出発だドン!」
「おー!」

 たかしの嬉しそうな笑顔は、なんとなく教授のそれに似ている気がした。

………………
今更ですがたかしという太鼓の名前、実は教授の本名に1ミリもかすってません
1nmくらいならかすってます。  こう言うとたまにナノ的な意味で捉えてくれない人が居るんですがちっちゃい方ですよ

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(3/12)
title bkm?
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