プロローグ下「空間、越えます」


「……ドン」

 誰も居なくなった部屋で、その太鼓は悟った。
 持ち主、主人である戦犯どらがこの世界から『いなくなった』ことを。

「一体、どうしたのカッ?」

 持ち主を失った太鼓は魂を宇失い、やがて人間界の世界と変わりない「物」となってしまう。ぱんどらもその理通りに消えていくのだが、しかし彼の目には明らかな疑問が残る。
 戦犯どらがこの世界で死ぬはずがない。きせのんが居るなら尚更だ。
――なら、彼に一体何があったのか?

「ぱんどら!」

 思考の最中、きせのんとその主が深刻な顔で部屋に入ってきた。彼女たちは何か知っているのだろうか、とぱんどらは振り返る。
「どうしたんだドン、そんなに深刻な顔をして」
「戦犯どらが水面から出てきた龍に連れていかれたんだ、だからぱんどらが消えてないか不安になって」

 やっぱり消えてるか、ときせのんの主の少女はため息を吐きながらへたりこんだ。しかしぱんどらは、その少女と別の解釈を見つけたらしい。

「それで水面下の世界に連れていかれたんだドン?……なるほど、それなら仕方ないドン」
「ちょっと待て、水面下の世界って何。あいつは素直に水没したんじゃないの?」
「それについて説明するには時間が足りないドン。でも、戦犯どらは確実に生きているドン」
「え――」

 その太鼓は踵を返し、窓の外に見える紅色の空を見上げる。

「君は、戦犯どらをどうしたいのカッ?」
「どうしたい、って生きてるなら助けたいに決まってるよ」
「……そう言うと思ったドン」

 ぱんどらは魂の抜けていく中、両手にありったけの力を集めていく。時間と空間は相反する存在でありながら酷似し、片方を制するならもう片方も自ずと制することができるようになると昔誰かが言っていた。それが本当ならば、きっとこれは不可能なことではない。

「君が戦犯どらのことを大好きだと思っているのは知っているドン。だから人間のきせのん。今から君をその水面下の世界へ飛ばすドン」

 但し成功するかも飛んだところでどうなるかも分からないドン、と付け加えた。しかし少女は迷わず肯定を選ぶ。

「行くよ、どうなるかなんて私も知らないし、今回戦犯どらが消えたのは私のせいでもあるから」

 ぱんどらは振り向き、頷くと溜められた膨大なエネルギーの塊を少女に差し出す。

「きせのんも暫くただの太鼓に戻るドン。でも大丈夫、二人がこの世界に戻ってくれば僕たちも復活するドン」

 さあ、早く。ぱんどらがせかす。彼女はさようなら、と呟きながら静かにその塊に触れ―――



 光が、溢れだした。


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