第七章「天翔ける空の奥へと」


「わー、高い」

 高所恐怖症の人間が空を飛ぶというのは無茶があったと思う。おかしいな、言いだしっぺ私なのに一番死に掛けてるのも私ってドユコト。もはや怖すぎて意識ぶっ飛びそうだよ。というか今絶対口から半分魂出てるよ。

「案外飛ぶな……さて、あいつのいる館っていうのはどこにあるんだ?」

 周囲を見渡したいけど意識を手放しそうでいまいち見渡せない。仕方なく目を瞑ったまま待っていると、後ろから「あそこだドン!」というたかしの声が聞こえた。気合でたかしの指差す方向を見てみると、確かに白い雲の上に古びた館。

「そこか」

 意思に反応してか向きを変え、加速していく槍。やがてその館のある雲に辿り着きおそるおそる着地してみると、不思議なことに突き抜けることはなく地面と同じように歩くことができた。どゆこと。

「二次元ってすごいですね」
「ゲームの世界ならこのくらいは当たり前だろ」

 とはいえ、足を踏み外したりしないか怖くて仕方ないのは相変わらずです。空の上怖い。本当に別ベクトルの空の上行っちゃいそうだよ。

「さあ、早くきょーじゅを助けにいくドン!」

 そして足をすくませている私を気にしない教授命な太鼓たかし。戦犯どらといいぱんどらといい、なんでそんなに怖がってないんですか。

「だってよ、きせのん氏も急げ」
「少しは待っててくれてもいいじゃないですか……!」

 猛ダッシュで館へ向かっていくたかしと、ぱんどらに乗りながら笑う戦犯どら。私は片方の槍をバチに戻して鞄に仕舞うと、棒高跳びをするようにもう片方の槍に乗った。上昇が無ければ一人でも行けるね、これ。

「おお、そんなことできるのか」
「きせのんがさっきから見つかりませんので。さっき運転感覚は掴みましたし」

 一応この槍は意思によって動くこととか落ちそうになってもうまいことバランスをとってくれることは分かった。いや、怖いことには変わりないけど。

「そういや何処行ったんだろうな、あいつ」
「……さあ」

 そういや忘れてたけどもはや考えちゃ駄目なんだと思う。きっとドンだーが無事なんだからきせのんも絶対無事だよとかいうでたらめな論を上げて強制終了。館の中で戦ってるうちにでも平然と現れてくれるよ、私の子なら。

「着いたドン」

 ぱんどらが静かに呟き、停止する。目の前にある館は遠目で見たときよりも古く、また何か妖しげな何かを感じさせた。

「きょーじゅはこの中に居るドン?なら、早く会いに行くしかないドン」
「たかし、少し落ち着け。この中にたかしは確かにいるが俺達の知ってるそいつではないからな」

 戦犯どらが苦笑しながら言うと、たかしは気を引き締めるように「分かったドン」と頷いた。
 そして、最後に太鼓のかけてくる音が聞こえてくる。

「遅れたドン!」
「あ、きせのん。やっぱり無事だったか」
「当然だドン」

 きせのんはにこりと笑いながら言う。これで一応全員揃ったのかな。

「それじゃ、準備はいいか?」
「大丈夫だドン」
「いつでもどうぞ」
「絶対にきょーじゅを取り戻して見せるドン」

 戦犯どらに勧められ、私はドアノブに手を掛ける。刹那、空白に飛び込んだかのように音が、景色が、全てが消えたような感覚に陥った。その中にうっすらと見えたのはきっと教授の笑顔――

「問題ないね。行くよ!」

 ――そして、ドアは開かれる。


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(8/12)
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