Memory10「ニセモノ」


「急にどうしたのジェフ、エレナなんて何処にも……!?」

僕の指指す方向を見てネスも同じくフリーズする。
目の前に居たのは、エレナ。あいつらしくない、ひどく冷たい目をした、しかし確かに見覚えのある少女だった。

「あれ、もう来ちゃったの?もっと楽しんでいればよかったのに」

そうだよ、私はエレナ。そういう彼女は明らかにいつものあいつと違った。
それなのに、こんなに心臓が煩いのはどうしてだろう。
目の前に居るのは明らかに偽物。こんなのがエレナな筈が無いのに。

「ねえ、エレナがどうしてここに?」
「ただ来たかったから。確かに捕まってはいたけどすぐに抜け出したよ」
「じゃあ、ポーラが何処に居るか知らない?」
「残念ながら。あの子も助けようとはしたんだけど、探しても見つからなかったの」

ネスはため息を吐いて一歩下がる。いまいち確信が掴めない様だった。
それでも、やっぱり違う。目の前のはエレナじゃない。あいつがこんなに冷静な訳がない。何かがおかしい。
僕は仮にもあいつの幼馴染だし、これくらいの違いなんてすぐに分かると自負している。……それでも、鼓動は収まってくれなかった。

「それにしても、ネスもジェフもまさか私の世界に来るとはね。面白かったでしょう?狂気じみていて」
「エレナの……世界?」
「そう、ムーンサイドは誰しも必ず持っている深層心理の世界。ここはそれを具現化させたもの」
「つまり、君がこの世界を?」

彼女は頷く。こいつは狂気じみたものを面白いとでも言うのか。少なくとも本物のあいつなら間違いなく吐き気を催すか最悪倒れる程の害だというのに。
違う、違う。僕は迷わず前に出て、目の前のエレナもどきの身体を強く揺さぶった。

「答えて。君は本当に僕の知る『エレナ』かい?」

勿論そうだよ、それは頷いて軽く微笑んで見せた。
……怖い。何か得体のしれないものを見ているような、自分の大切なものを自ら壊すような感覚。
僕は偽物のエレナから数歩引きさがり、臨戦態勢に入った。やっぱりおかしい。こいつはエレナなんかじゃない。

「……エレナ。君が本物のエレナなら絶対僕に勝てるはずだ。勝負してくれないかな?」
そして、目の前のと同じように作っただけの笑みを見せる。
心なしかエレナもどきだけじゃなくネスも戦慄してる気がするのはどうしてだろう。今更どうでもいいことだけれど。

「本当にいいの?そんなことしたら負けた方は間違いなく病院送りだけじゃ済まされないよ」
「それでもいい。……戦ってくれるね」

――それは、こくりと頷いた。



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