「おかえり。」(クルーク)


フェノが居なくなって、もう何か月経つんだろう。
あいつは少し前、突然「暫く居なくなる」とだけ言って消えた。
ただそれだけ。それだけ、だというのに。


放課後、図書館内。ボクはいつも通り本を読みに兼借りに来ていた。
いつもの席に座り、予め傍らに本を選んで積む。それから一番上の本を取り出し読んでみる。
……全くと言っていいほど、内容が入らない。
ここ最近、ずっとこの調子だ。どんな本も授業も頭に入らない。信じ難いことにボクの頭の中はフェノで一杯だった。
理由は分からないが、とにかくボクは常にあいつのことしか考えられなくなっていた。
どうして突然こうなったのか。一昨日リデルになんでこんな症状が出るのか聞いたら恋煩いだと言われた。
ボクが恋煩い?笑わせないでくれよ。
これは絶対そんなんじゃない。そうだとしても信じたくない。
……けれど、胸が苦しくて仕方ないのは確かに事実だった。

「……はあ」

本から顔を離して天井を見上げ、溜息を吐く。湿った空気が妙な雰囲気を醸し出していた。
まあ……勿論、この程度で痛みが治まる筈がないけれど。
取り敢えずボクは本を読むことを諦め、そのまま家に帰ることにした。
時間だけを浪費するなら家に居た方がいい。はずだ。



「ただいまー……」
誰も居ない家に挨拶をすると、ボクは真っ先に勉強机に向かった。そして突っ伏した。
いつもこうして少しでも動悸を落ちつけようとしているけれど……ほぼ意味がない。
フェノにもう一度会いたい。抱きしめたい。よく響く耳障りなはずの声が愛しくて仕方がない。
色々並べても無理だ。諦めなければならないことは分かりきっている。
第一、ボクがあんな奴を好きになる訳がないのに。でも、それなら何なんだこの気持ちは。
自問自答で頭がこんがらがり、そして同時にまたボクは胸の痛みに苦しみだす。
もう嫌だ、こうなったらもうボクはいっそ――

「ヒャッホオオオオオオオオオオオオオウ!!」

刹那、ガシャンとボクの部屋の窓ガラスが割れる音。そして入ってきた侵入者の足音。
心臓が止まる。そして直後に身体が熱くなる。
この声と入室方法――多分、いや絶対間違いない。

「いやー、すまないね三カ月も放置しちゃってーってどうしたのさそんなに震えて」
「……」

ボクは椅子からゆらりと立ち上がり、ゆっくりと振り返る。
そりゃ震えるよ。だって、だって――

「……バカ」
「う、うん?」
「フェノの……フェノのバカアアアアアアアアア!!」
「うわっ、ちょっ、やめっ、うわわわわわっ!?」

ボクは勢いよくフェノに飛びついた。そしてぎゅっと抱きしめる。
やっと会えた……嬉しさからか、鼓動が中々収まってくれない。

「バカ……バカバカバカバカバカ!!」
「あの、クルークさん?どうしたのさ一体」
「どうしてこのボクを置いて何カ月も別の場所に行って……覚悟は出来ているんだろうね?」
「覚悟……って一体何をする気かね」

相変わらずフェノはボクよりはるかにバカだ。そして鈍い。
けれど――だからこそ、離したくなくなる。
ボクは質問に答える代わりに抱きしめる腕の力を強めた。

ボクがキミを好き?何を言っているんだい。
そんな訳ないじゃないか……好きじゃなくて『大好き』なんだよ。
え?嘘言うな?それなら証明してあげようか?このクルーク様の愛を!



……おかえり、フェノ。

…………………………
某RAPに触発されて書き始めたと思ったらブラウザバックの罠。
難産でしたが一応記念すべきでもない復帰作です。

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(2/7)
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