うそうそ時(キャラクター指定なし)


太鼓の達人より「うそうそ時」イメージストーリー
無駄に長いです

「……暇だなあ」

 ぽつり、静かに呟く。声は焼け跡しか残らない部屋の中で反響して、それ以上の音を生むことは無い。
 どうも私です。とある山の上の湖のほとりにあるこの家は、少し前まで私の住んでいた場所でした。何故か数日前に放火されちゃったみたいで気付いたら家共々寝てる間に死んでたんですよね。不思議!
 結果いつもこの家に遊びに来てくれていたあの人――名前は言えないけれど、その大好きな人に想いを伝えることもできずに死んでしまった私は地縛霊的な感じで残念ながら現世に留まってしまいました。
 成仏したいです。万丈イム−一ノ十。少し前まで少しだけ賑やかだったこの部屋も、今となっては覗く人すら居やしない。湖の周辺にも以前は人が居た筈なのに、家が焼けて以来誰も見ることがなくなりました。
 ここまで暇すぎると一周回ってむしろテンションが壊れます。なんかもう部屋の中でぼーっとしてるのも飽きてきたのでいっそのこと外へ出て山を探検してやろうとか思ってきます。山の中なら自由に歩き回れたりするのかな?活動可能範囲を調べるためにも出掛けてみる?

「いいや行こう!暇だ!そして思い立ったが吉日!善は急げ!」

 極力テンションを上げて叫んでみたけれど、この声が人間に聞こえることがないのは当然のことであり。というかその人間さえ居ない訳で。
 結論から言うと、私は現在すこぶる寂しすぎる人になってます。

「わー……」

 気付けば秋、紅葉の季節。辺り一面が紅葉や公孫樹などによる赤から黄色のグラデーションで美しく染まっている。まるで真っ赤な絨毯みたいだ――そう形容する人もいるけれど、個人的にはこの景色をそんなどこの家庭にもあるようなものに例えてほしくない。だって、似ているのに決して被ることの無い細やかな色の移り変わりはきっとその場所で、その瞬間しか見ることのできないから。とにかくその景色を何か言葉で言い表したくて、しかしそれができないもどかしさを味わうのが雅なことだと思うんだけどな。
 そんなどうでもいい不満を脳裏に浮かべつつ、香りに誘われ咲き乱れる山茶花達の中へふわふわと無い足を踏み入れる。いや、一応あるにはあるけど浮けるから別に要らないかなって。

「綺麗だな……」

 歩きながら、ついぼんやりと呟く。その度に私は嫌になる。言葉に形容できないのに、それを無理矢理言葉にしようとしても結局は『綺麗』なんて一言で終わらせてしまうから。
 別に長ったらしい表現がいいとか、『綺麗』という言葉の曖昧性が嫌いな訳じゃない。ただ、言葉で表せないものを無意識に言語化してしまうのが嫌なだけ。それでもしてしまうのはきっと、私が人間だったからだろう。言葉によるコミュニケーションは人間、というか生物にとって非常に重要なことだから。

「さて、と」

 そうこうしている内に、いつの間にか山の麓付近まで辿り着く。私の元家は比較的頂上付近にあるから気付かない間に結構下ってきていたらしい。景色に夢中で全然気付かなかった。

「流石に麓へ降りるのは……無理だよな」

 試しに足を踏み入れようとして、しかし何故か頭の中に強い拒絶が響く。どうやら精神的にくるらしい。駄目じゃん。

「仕方ない、帰りますか」

 帰りは山登り。今なら浮いていて足を使う必要がないから、きっとそこまで疲れない。

 うそうそ時の空の下。こんなに紅葉が綺麗なんだ、出来ることならもう一度あの人を迎えたいと思って気付く。そういや私死んでるわ。

「結局今日も来てくれなかったな……当然か」

 彼は焼けた翌日に一度この部屋を訪れて泣き崩れていた。そして一度山を降りて花束を手向け、それ以来二度とここに来てくれることは無くなってしまった。当然だ、来る理由が無くなってしまったんだから。
 せめてもう一度だけ、一目でもいいから会いたいな――そう思っても、どうしようもない。

「あー、無い心臓が痛いわー」

 重くなりかけた気分を少しでも軽くするために、わざと明るい冗談を言って作りものの笑顔を浮かべる。……ああ、なんだか余計に悲しくなってきた。なんとなく見上げた空は暗くてでも明るくて、まるで私の心を表しているようで――雲ひとつなく澄んでいるのが、なんとなく羨ましく思えた。夕月はまだ見えない。

 「もう少し待っていれば来るかな。月も、あの人も」

 いつの間にか泣いていた鈴虫の声が、空っぽの心に響いて消えていった。


 ある日の、うそうそ時。今日もあの人は現れなかった――そう言ってため息を吐いた瞬間、かつてドアのあった辺りで声がした。

「ねえ、君はここに居るの?」

 ――あの人だ。私は嬉しくなって、すぐに彼の前へ飛びだす。見えないのは分かってる、けれど、精一杯自己主張する。「私はここだよ」と。
 彼は、泣いていた。

「どうしたのさ、そんなに泣いて。君らしくないよ」
「見えないだけなのかな、それとももう居ないのかな。……お邪魔するよ」

 声は、届かない。彼は私の部屋へ上がると窓辺に立ち、暗くて明るい秋空を見上げた。

「僕にはね、ずっと君に隠していたことがあったんだ。君に言いたくて、けれど言えなかったことが一つだけ」
「なになに、早く教えてよ。それから私君の目の前に居るよねえねえ気付いてよ無理だけど」

 彼は袖で涙を拭い、悲しそうで――けれどとても幸せそうな笑顔で言った。

「僕ね、ずっと君のことが好きだったんだ。この山の中で出会ったあの時から」

 ――私の中の時が止まる。それは、私が一番聞きたくて、けれど一生無理だと確信していたはずの言葉だった。

「嘘だと思うかもしれないけれど、本当だよ。僕は君と一緒にいたくて、だからずっとこの部屋に来てた。ずっとずっと」

 私の目からも、温かい雫が零れる。おかしいな、それを言うのはきっと私が先だと思ってたのに。

「僕の誕生日が来たら、君に言おうとしたんだ。でも、その前に死んじゃった」
「……」

 私もだ、そう言おうとして口を開く。けれどそれを口にしたら自分が壊れてしまう気がして、言えなかった。
 おかしいな、君には私の声は聞こえないのにね。――それでも、言えない。

「今日がその僕の誕生日なんだ。一緒に楽しい一日を過ごして、最後にこの想いを告げるつもりだった。けれど、それは叶わなくなっちゃって……」

 ごめんね、彼は涙声で俯きながら呟く。謝りたいのはこっちの方だよ、こんなことになるなら予め私から言えばよかった。
 彼は悲しみのあまりしゃがみこんでしまい、暫くして茫然と空を見上げる。私はその背中を抱き締めようとして――それはできなかった。当然のことながら腕が透けてしまって、うまく彼の肩を掴めない。

「ほら、夕月が見えてきたよ。今夜は三日月だね」
「……本当だ、『綺麗』だね」

 伝えられなかった、ずっと君に言いたかった言葉を噛み殺して、見えないのも聞こえないのも知りながら私はせめていつも通りに彼に会話を返す。悲しみを押し殺すのはとても辛いけれど、それでもせめて君が隣に居る時だけは笑顔で居たかった。


 私も大好きだって言えたら、どれほど幸せだったことだろう。
 鈴虫の泣き声が、ただひたすら秋の空に響いていた。


………………
お久しぶりです。
リハビリ的無駄に長い文

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