プロローグ


――月の見えない、曇天の夜。
クルークに連れられ、私はアルカ遺跡へ来ていた。
そう、皆大嫌い肝試しスポット。しかも今回はその最深部へ行くつもりらしい。
「……クルーク、帰ろうよ」
「なんだよナマエ、怖いのか?このクルーク様が居るんだから大丈夫だよ」
「でも……」
「ほら、見えてきた」
私の話を遮り、彼が見るのは奥にある扉。
それは、硬く閉ざされた鋼で出来ていた。
もう子供は寝る時間だと言うのに、こいつは私を帰す気などないのか。
……もう帰りたい。
それに、なんだろう。
少なくともいい予感がしない……
怖がり、震える私に微笑みながら、クルークは星、太陽、月の象徴を持つアイテムを取り出す。
「さあ、始まるぞ……」
「え、ちょっ」
そしてそれらを持っていた本に近付けた瞬間、紅い光が辺りを包み――



――紅い光の中。
クルークはどうしたんだろう。大丈夫、なのかな。
目を開けると、そこには紅い影が無いはずの月明かりに照らされていた。
それは、とにかく『紅い』。
少なくとも其処に居たのはクルークではなさそうだった。
……怖い。
そう思ったのは何度目だろう。
でも、彼を置いて逃げ出す訳にはいかない。

「……く、クルーク。一体どうしたの?」
「ようやく……ようやくこの者の身体を乗っ取ることができた!」
「っ!?」

勇気を出して話し掛けると、帰ってきたのはいかにも「私はクルークではございません」と言っているに等しいセリフ。
というか絶対そうだ。これはクルークじゃない。
まず、声から違う。

「貴様……確かナマエといったな。随分この者と親しかったようだが」
「あなたは、誰……」
「私か?私はこの本の中に封印されていた者だ」

『彼』はそう言いながら私に近付いてくる。
紅いマントをはためかせるそれは、とても美しくて、恐ろしかった。

「ククク……この時をどれだけ待ち侘びたことか」

紅い瞳と視線がぶつかる。逸らしたいのに逸らせない。
彼は私を何か愛おしいものを見るような目で見つめると――不意に、唇を塞いだ。
ちょっと待って、何この魔物。
シェゾでも初対面の人にこんなことしないのに。
あとクルークは何処行ったの?まさかこのままなんてことはないよね?

混乱していく私の唇から自分のそれを離すと、彼はニヤリと妖しく嗤う。
そして、こう囁いた。


――頂くぞ、その心。



変態だ、この人。

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