残された記憶



私は何故彼女を行かせてしまったのだろう。
残るのは後悔と罪悪感、ただそれだけだ。
私はあいつとずっと一緒に居たかった。
ただそれだけだったというのに。
何故、何故。

何故人間は、こうも愚かなのだろうか。


「……」

怒りに身を任せ、紅い波動を放つ。
何度も、何度も。彼女を殺した人間達へ。
私を一つの存在と認め、心を開いた唯一の我が友人……いや、恋人を殺した人間へ。
許せなかった。
彼女は私のためになんでもしてくれた。
彼女を殺そうとした私を止めた。人間を殺そうとした私を止めた。私を殺そうとした人間を止めた。
初めてであった時は確かにあいつを殺してやろうと思った。
だが接しているうちに気付いたのだ。人間の中にも穏やかな存在が居ると。
その微笑みが、声が、温もりが私の心を融かしていった。
気付けば奴に惚れてしまっている程に。

それを、同族――同じく人間に殺されたのだ。
私を守るが為に、人間とたった一匹の魔物を共生させるために。
最期まで奴は私を裏切らなかった。
もしかしたら奴も私が好きだったのではないか。そう自惚れたい。
しかしその声はもう聞こえない。
笑顔も見えることは無い。
その肌の温もりも――!!



気付けば私の周りには人間の死体しかなかった。
それから、返り血塗れの城門。
そして、彼女の亡骸。
だが、後悔は無かった。
彼女の仇を討てたのだから。

「……」

……私はこれからどうすればよいのだろうか。
答えは一つ――死、だ。
彼女を失った私に生きる道理は無い。
この醜き魔物である私に、誰があのように接してくれようか。

「……ありがとう」


最期に残した言葉は、皮肉にも感謝の言葉だった。
それは、一体彼女に届いたのだろうか。
今では知る由もない。
だがそれでいい。
あいつに聞かれたら、どうせ笑われるだけだからな。




また会おう、我が恋人よ。
願わくば、その時は普通の人間として――








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テーマ「人外ファンタジー」
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