その4「家路の封鎖、奴の束縛」



……あれ?おかしいな。
コートのポケットに入ってないぞ?
もしかしてスカートのポケット?……いや、無い。
あれれ?体育の授業の時にポケットに入れたからそれの中?いや、それも違う。
もしかしてアミティにパクられた?それは絶対無い。
えーっと、じゃあそれはつまり……


「家の鍵無くしたあああああああああああああああっ!!」


おっかしーなー、どっかで見たことあるよこの光景。
主に結構前……そうだ、確かあのナルシストに告白された日だ。
完全にデジャヴってるね。今回の方が被害何十倍だけど

「へえ、家の鍵を無くした?キミって結構ドジなんだね。昔からか」
「今日だけは認めます」

私の叫びはやっぱりクルークの耳に届いたらしく、取り敢えず彼の家にお邪魔させて頂くことになった。
で、今はその家のリビングで落ち込む私を見ながらナルシストがうひゃうひゃ笑っているところ。
普段ならイライラするんだろうけど、今日ばかりは流石に怒れない。
こいつが人を自分の家に招き入れるなんて、滅多にしない行為だからね。
それほど愛されているのか、それとも呆れられたのか。
どちらにせよ、私は彼に感謝するしかない。
したくないけど。すっごいしたくないけど。

「で、それを無くしたのは何処だい?」
「レムレスの学校の寮だと思う。あの後寮に連れて行かれて土日で泊ってたから」
「……へえ」

クルークは「気に入らない」と言わんばかりの表情を浮かべ、眉をピクリと動かした。
なんでそんなに気に入らないんだか。
あの人が私を好きなはずなんてまず無いのに。
というかこいつも実際私のこと嫌いだろ、絶対。
何かあるとすぐ嫌味言いやがるし、むしろアミティ達に接してる時の方がよっぽど優しいよ。
なんでこう扱いに差があるのかな。いや嫌いだからだろうけど。
でもそれならなんで嘘ついたんだろう?冷やかしか。
面白いことにこいつの行動に理由をつけようとすると大体私を避けることが理由になる。
そんなに嫌いなら相手にしなきゃいいのにね。

「……ナマエ。今ボクに物凄く失礼なことを考えてなかったかい?」
「正直に言おう、考えてました」

ええ、そりゃもう普通に。
彼は私を睨み、「全く。このクルーク様をなんだと思ってるんだい」と呟いた。
……へたれ天才ナルシスト?
なんてこと言える訳が無いので言葉ごとミルクティーと一緒に飲み込み、苦笑いでその場をごまかす。
言ったところで家から追い出されるか半殺しだもんね。
まあ追い出されてもいいけどさ。レムレスの帰りを待てばいい話だし
それにあんまり迷惑を掛けるのもいけないしね。
こいつのことだから普段のこの時間は勉学に勤しんでいることだろう。
そう考えると自分がクルークを邪魔しているようにしか思えなかった。

「……なんだ、やけに大人しいな。ボクのことを心配してるなら大丈夫だよ」
「いや……でも悪いよ。いつもこの時間には勉強してるんでしょ?」
「うわっ、本当にキミナマエかい?今の冗談なんだけど」
「残念ながらこれも私だよ」

むしろ私が心配されてる、か。
これじゃますます邪魔になっちゃうね。
ミルクティーを早めに飲み干し、そしてすぐに席を立つ。
それから手早く荷物をまとめ、最後にショルダーバッグを肩に掛けた。
いや、肩以外に掛けるショルダーバッグなんて無いけど。

「ナマエ、どこ行くんだい?」
「帰る。もしくはレムレスの寮に行く」

単調にそう言うと、クルークはいきなり立ち上がり私の腕を掴む。
なんでそこまで構ってくるのさ……普段はめんどくさがるくせに。

「何言ってるんだよ、キミの家へはまだ入れないだろ!?」
「だから一旦荷物置いてあの学校に……」
「いいよ、今日は泊っていっていいから」
「それは駄目。私がここに居たらあんたの邪魔するから」

クルークのその行為が嬉しくないと言えば勿論嘘になる。
というか真逆だ。凄い嬉しい。
でも駄目。迷惑掛けるなら一人で居た方がまだマシだよ。

「……離して、クルーク」
「嫌だね」

まあ、問題はこの人か。
邪魔するから離れようと思ってるのに、むしろそれを邪魔されるって一体。
今日はテンションがダダ下がりしてるからいまいち魔導の威力も低いし、そもそも振り払えるほどの力が無いっていうのに。
クルークはいかにも迷惑がる私の腕を掴みながら立ち上がり、ただ何も言わずに抱きしめた。

「離して」
「嫌だ。なんでボクがキミを手放さなきゃいけない?」
「なんだかんだ言って私が嫌いなくせに?」
「なっ……そんなにボクに縛ってほしいのか?」
「違うよ。だってクルークはいつも私にはラフィーナと同じ扱いをしてるじゃん。アミティ達の方がよっぽど優しくされてる」

言いながら思う。
私はアミティ達にやきもちを妬いてるんじゃないか、と。
そんなことは無いと信じたい。
でも、クルークが他人と仲良くしてるところを見てるとどうしても変な気持ちになる。
……好きなの?このナルシストが?
ねーよ。
そう言いたいところだけれど……

「ナマエ」

クルークは耳元でそう囁き、より抱きしめる力を強めていく。
苦しい、息が出来ない。
そう思っていたが、同時に心地いいとも感じていた。
苦しいのに気持ちいい。これはどういうことなのか。
私には何も分からず、ただクルークに身を委ねているだけだった。

「ボクがキミを嫌いになるとでも思ったのかい?残念ながらボクはしぶといよ。例え誰かに奪われたとしても、ね」
「……」
「言っただろ?ボクの元を離れることは許さない。今日はレムレスに会っちゃいけないよ」
「でも、明日の準備が」
「教科書ならボクが貸す。……これでいいだろ?」

逃げ道を作ろうとしても、すぐに塞がれる。
無理だ。こいつに勝てる気がしない。

「諦めな。キミはボクには勝てないよ」

勝ち誇ったかのように、彼は笑う。
いや違う、実際に勝ち誇っている。私は負けたんだ。
厭味ったらしいその声には、微かに甘みが含まれていた。


……やっぱり、こいつには勝てる気がしない。


……………………
今回も実話ネタです。
家の鍵を学校に忘れたものの、戻るにも戻れない(電車で往復二時間)という状況で諦め、仕方なく三時間外で某推理小説読みながら親の帰りを待ち続けた昨日←
寒かったです。風とか雨とか。
しかもそういう日に限って飲み会行かれるとか困った困った。
まあ詳しい事は省略。昨日もこんな感じになってほしかったものです(しろめ

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(4/5)
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