その3「彗星の出現、奴の不在」



「どう?ナマエ。おいしい?」
「はい!生キャラメルにツキマワリの雫……甘さがいい具合に中和されて美味しいです!」
「そっか……じゃあ、失敗だね」
「へ?でも個人的にはこういう甘さ控えめのものの方が……」
「駄目駄目。僕が満足できないんだ」
「むう……お菓子作りって大変ですね」

とある日の放課後。
私は追加の課題を提出し、レムレスの待つ調理室に居た。
本当は入っちゃいけないんだけど、今回はレムレスによって特別に許可を貰っている。
だからここにはレムレスと私だけ、フェーリもクルークも居ない!
……クルークが居ないのは正直ちょっと寂しいけどね。
レムレスは甘い微笑みを浮かべ、次に桃色のチョコレートを差し出した。
ハートの形をしていて、いかにもなバレンタイン用。
いつか私もクルークにこういうの作ってみたいな……ってなんであいつなんかのこと考えてるんだ私!?

「……ナマエ、最近嬉しそうだね。何かいい事あった?」
「全然ないです。強いて言うならあのナルシストに振り回されるくらい」
「クルークに?珍しいね。あの子は僕と魔道ぐらいにしか興味が無いのに」
「ですよね。もう毎日ひっつかれて本当に……え?」
「へえ、そんなに懐かれてるんだ。もしかしてクルークが最近告白した子って」

顔が熱くなる。
わあい、自爆しちゃったよ私。
レムレスはくすくす笑いながら、黙ってチョコレートを食べる私を見ていた。
……止めて下さい。死んでしまいます。

「やっぱりナマエだったんだね」
「ううう……」

仕方なくこくりと頷くと、またレムレスは笑う。
恥ずかしい。あいつなんかどうでもいいはずなのに何故か恥ずかしい。
というかそれ以前になんで嬉しい事を聞かれたのにナルシストの話になったの?
あんな天才を好きになる訳ないはずなのに。

「……困ったな、僕も狙ってたんだけど」
「何をですか?」
「ナマエをだよ」
「はい!?何をガハッ、言い出すんですかゴホッ、グフッ」

危うく噴き出しそうになるのを抑え、少しむせる。
なんでいきなりそんなストレートに言えるのレムレス組の皆さん。
しかもなんでこの彗星の魔道師に好かれる必要が?

「ちょっと待って下さい。いきなりなんですかレムレス」
「何、って告白だよ」
「冗談はやめて下さい。大体私とレムレスの絡みなんてあまり無いじゃないですか」
「……僕は本気だよ?ほら、そのチョコレート」
「へ?」

……ああ、なんだか頭が痛くなってきた。
どうしてこうなったの?
私が今食べているのは確かにチョコレート、しかもピンク色のハート形。
でも私はあくまでレムレスにお菓子を食べてほしいと(ほぼ無理やり)連れてこられただけであって……

「……レムレス、悩みの種をいちいち増やさないでください」
「簡単な話だよね?僕を選ぶかクルークを選ぶか。たった二択だよ」
「そうですけど……」

確かにレムレスの言うことは一応合っている。
でもだからといって「はい、じゃあ○○ね」とか一瞬で決められるはずがない。
ましてや相手はナルシストと彗星の魔道師だ。
何これ?死亡宣告?

「返事は今すぐじゃなくていいよ。クルークとも話さなきゃいけないでしょ?」
「それ以前に私はまだ誰を好きとかそういうところに居ないんですって」
「じゃあ、キミを惚れさせてあげる」
「おーい、この学校に塩製のケーキをお持ちの方はいらっしゃいませんかー」

現実逃避しても通用しない。
分かってる。分かってるけどさ。
……困るよ、色々な意味で。
クルークにこんなことが知られたら私どうなる?
冗談じゃなくそれこそ本気で死亡宣告だよ。
さっきから死ぬ死ぬ言ってるけど今回は割と本当になりそうで怖い。

「……さ、ナマエ。どっちを選ぶの?僕とクルーク」

勿論どっちも選びません。
私はただ明後日を見る目で彼の笑顔を見つめるだけだった。

prev next


(3/5)
title bkm?
home





×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -