あれからまた少し涙を溢しつつ無事に家へとたどり着いた私はすぐに私が嫁ぐ殿方と顔を合わせた。見た感じはとても優しそうな方、少し言葉を交えても見た感じと一致したようにお優しい言葉をかけてもらい、とても好印象を受けた。そう簡単に富松先輩への恋心を断ち切ることは出来ないけれど少しずつ努力はしていくつもりだ。そして顔合わせから少しして私はその方と祝言を挙げ、夫婦となった。のは良いのだが、この初めての顔合わせから祝言を挙げるまでの少しの間に私の身に吐き気、食欲不振などの体調の変化が起きた。時期的にも丁度良い。……つまり何が言いたいのかと言うと、私の体に、富松先輩の児が、宿った。

嬉しくて涙が出そうだった。だけれど私の身はこれでも一応嫁入り前の娘なのだ、上手く隠さなければならない。そして祝言を挙げ、夫婦になるあの殿方と一度は肌を合わせなくては。それもはやいうちに。そうしなければお腹の児が殿方の児ではないとバレてしまう。それだけは阻止せねば。ああけれどもお腹に児がいる状態で肌を合わせても良いものなのかしら。などと一人で悶々と考えているうちに日にちはたってしまい、私達は双方の家から祝福を受けながら祝言を挙げることとなったのだった。だがしかしここで問題が起きた。夫婦となり殿方と二人で暮らすようになってからひと月ほどすると殿方は度々体調を崩されるようになってしまったのだ。


『………あなた様、お加減は如何ですか?』

「…あぁ……大分良い。すまないな朝美、祝言を挙げたばかりだと言うのに」

『………いいえ、私はあなた様が生きていてくださればそれで良いのです。今お水をお持ちしますね』

「………あぁ…」


実は殿方は元来あまり体が丈夫な方ではないらしい。けれどここ数年は体調が安定していたから私を嫁にとったのだと初夜の晩、行為のあとに話してくださった。私はそうなんですか、としか返すことが出来なかったけれど、殿方はまるで幼子に触れるかのように私に触れ、今が一番幸せだよ、昔から人様と同じ幸せを味わいたかったんだ、とはにかむように笑った。そのとき私は、ああなんて優しい方を騙そうとしているのだろうと初めて罪悪感を感じた。初めて殿方が体調を崩された日から日にちがたつにつれて殿方の体調はどんどんと悪化していき、私のお腹も少し出てきて私の罪悪感はますます大きくなる。殿方がこんなにお優しい方でなければこんなに罪悪感を感じることはなかったのに。だからといって私の手でこの人を殺すことなんて出来やしないのだ。私にはこの人に罪悪感を感じつつ看病するしか道はないのだと少し出てきたお腹を擦りつつ思った。

そうして私の甲斐甲斐しい看病は実を結ぶ間もなく、殿方はどんどんと衰弱していってしまい、この世を去った。殿方の最後の言葉に私は涙が止まらなくなった。私は私のことで精一杯だったというのにこの人は。


「朝美、ありがとう。愛しているよ」




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