あの晩からひと月ほどがたった。私は何も言っていないけど富松先輩はあの晩のことを課題かなにかだと思ってくれていたらしく誰にも言っていないようだったし、私と会話する際も少し顔を赤らめるものの何も言って来ない。のでどうやらあまり気にしていないように思う。少しばかり悔しいけれど私としてはお慕いしている富松先輩と口吸いすることが出来て、まぐわうことが出来て純粋に嬉しいのであとは富松先輩の児がこの体に宿っていることを祈るのみだ。ちなみにこのひと月で学園での手続きも終わり、あとは家の方の準備が整うのを待つだけとなった。



それからまたしばらくたち、家の方の準備が終わったとの文が学園に届いて私は同室の子に別れを告げて学園を出た。本当は富松先輩に挨拶をしたいところであったが富松先輩にとって私は割と話す方だがただの後輩でしかないことを知っていたためあえてなにも告げなかった。最後にそのたくましい姿をこの目で見ておきたかったけれどそれは私の個人的なわがままだから。これから私は両親が決めた見たこともない殿方のもとへと嫁ぐ身なのだ、気持ちをきちんと整理しなくてはならない。この恋心は捨てなくては、と思うと歩き始めていた足は動くことをやめ、胸がいたく苦しくなり涙が頬を伝った。

もういいだろうか。学園を出てからかなりの距離を歩いた訳だし、町もそんなに近くない。それにこの辺りに学園の関係者はいないだろう。私はその場にしゃがみこんで、おもいっきり泣いた。さすがに声をあげて泣くことはないけれど、今だけ、今だけだからくのたまでもない、これから嫁ぐ娘でもない、ただの富松作兵衛という殿方に恋をした霜田朝美という女の子にさせて頂戴。私はあの人が愛しいの、一等好きなの。本当は学園を離れたくないの、嫁になど行きたくないの。あの人をずうっと見ていたいの、あの人にとってただの後輩だっていいから、振り向いてくれなくたっていいから。そう思えば思うほど涙が溢れて止まらなくて。ああ、こんなに泣いたのは小さいときぶりね。


『…と、まつ……せん、ぱ……い………』


お慕いしております。と小さく呟いた声は誰にも届かないまま空気に溶けて消えた。


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失恋の描写って難しいですね。この場合失恋って言ったら少し微妙なんだけども。書いていて胸がいたい。




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