そしてあの晩のことが忘れられないままひと月と少しがたった。あの晩の俺はどうにかしていたらしく、霜田を見る度に感情に身を任せ自分の思うままに霜田に触れたことを思いだして顔を赤くしていたが、霜田の態度は以前と変わらないままで、やはりあれはくのたまの課題であったのだと思うようになった。あれは課題であって俺に気があったわけじゃない、そう考えるとチリチリと胸が痛む。行為中の霜田が俺を見る目は最愛のそれを見る目によく似ていて、もしかしたら霜田も俺を想ってくれているのか?という錯覚を覚え、俺が彼女を求めたように彼女も俺を求め、霜田が俺を求めたことをいいことに何も考えず何度も己の欲を彼女の中に出してしまったが、そう感じていたのは俺だけだったようだ。とんだ自惚れ野郎だ、俺は。




あるときくのたまの下級生たちが霜田が学園を出ていってしまったという話をしているのが聞こえ、バッとそのくのたまの下級生たちに視線を向ければくのたまの下級生たちは驚いてなのか怯えてなのかはわからないがその場をそそくさと立ち去っていってしまった。多分そのときの俺の表情はものすごく酷かったのだろう。そんなことよりも霜田が学園を出て、いった……?それはこの世の中ではごく普通のよくある出来事だと言うのに俺はひどく動揺した。霜田は元々行儀見習いであったらしいのだが家からの連絡が遅く、そのまま進級してしまったのだと本人が言っていたことを思い出す。行儀見習いであったならそのうち学園を出ることは確定で。おなごが家の決めた相手に嫁ぐことはある意味一種の決まりごと。つまり霜田は。霜田は。


「………くそっ……」


納得なんて出来る筈がなかった。霜田が学園を出たのは家の決めた相手に嫁ぐからであろう。俺はどうしようもなくやるせなくなり、彼女が他の男のものになる、そう考えただけで嫉妬で胸が張り裂けそうだった。ああ、どうしてあの晩に気持ちを伝えなかったのだろう。気持ちを伝えていたら少しは結果が変わったのだろうか。霜田は、俺の近くに、そばに、隣に、いて、くれたのだろうか。後悔ばかりが俺を襲う。色は忍の三禁の一つであるのは知っている。禁止されている理由も全て学んだ。でも。それでも。

俺は霜田朝美という一つ年下の女の子を一等好いていた、愛していた。もう一度、一度だけでいいから霜田に会いたい。会って、話をして。触れ、たい。それが叶うことは決してないことはわかっているけれどそう思わずにはいられなかった。俺は涙をぐっとこらえて空を見上げた。


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富松は夢主が行儀見習いだということを思い出したのになぜ房中術の課題だと思い込んだのか、っていう




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