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作兵衛が初めて手料理をご馳走してくれてからというもの、作兵衛は何故か私によく甘えてくるようになったのだが何故だろう。いや私もよく作兵衛に頼っちゃうんだけどさ、甘えてくる作兵衛ってすごくかわいい。甘えてくると言ってもそんな過度なスキンシップとかじゃなくて普通に課題見せられてこれわかんないから教えて、みたいな。甘えるっていうか頼る?っていうの?でもなんかこう、互いの距離が近くて私の高鳴りっぱなしの心音が作兵衛に聞こえちゃうんじゃないかとすごく心配になってきている最近。今日もまた両親の帰りは、遅い。私は軽くため息をついて近所のスーパーに夕飯の買い出しへと出掛けた。
買い出しも終わり結構たくさん買っちゃったなあとビニール袋いっぱいの荷物を両手にぶらさげて自宅へと帰る。自宅に帰れば玄関には珍しく先に帰ってきたらしい作兵衛のローファーがあって少し驚いたが丁度いいので荷物を台所まで運んでもらおうと作兵衛を呼ぼうとしたけれどスーパーから家まで持って帰ってこれたんだから大丈夫だよなと思い直し、そのまま台所へ向かった。
『ただいまー』
「おかえりー、ってなまえ姉さん、なんで荷物あんのに俺のこと呼ばねえの」
『えー?いやスーパーから家まで持って帰ってきたわけだし大丈夫だよなあって』
「……それでも少しは俺のことも頼ってくれよ。これでも男なんだからさ」
『…ん、わかったよ。ありがとね作兵衛』
「………俺がしたいだけだから別にいいけど」
そう言って作兵衛は私の両手にぶらさげられた荷物を持とうと手を伸ばした。そのときにふと互いの手が触れて私は驚いて思わず荷物を落とす。幸い卵みたいなものや瓶は入っていなかったため何かが割れる心配はなかったが、手が触れるだけでなんでこんなに驚いてるのよ自分!と高鳴りだした心音を落ち着けようとゆっくり呼吸を繰り返したが、作兵衛が手を握ってきたため落ち着くどころかさらにばくばくと心音は大きくなる一方だった。
「………なまえ、姉さん」
作兵衛が少しうつむきながら私の名前を呼んだ。私から彼の表情は見ることは出来なくて作兵衛の中で何が起こっているのか、そんなことわかるはずがなかった。
『………作兵衛?』
「……………なまえ、さん」
『………っ!?さ、作兵衛?ど、どうしたの?』
「ごめんなまえさん今だけこうさせて」
作兵衛は小さな声でそう言うと私の手を引っ張って私の体を抱きしめた。一瞬何が起こったのか私にはわからなかったが作兵衛に抱きしめられているんだとわかった途端、一気に体温が上昇して恥ずかしくなって作兵衛から離れようとした。けれど私の背中と腰に作兵衛の腕があってしっかりと抱きしめられていたためそれが叶うことは無かった。
『……さくべ、離して』
「……………」
作兵衛は何も言わなかった。そしてぎゅうとさらに私を強く抱きしめ、私の肩に頭を置いてぽつりと一言。
「……俺なまえさんが好きだ。勿論異性として」
一瞬私の呼吸が止まった。そして今言われた言葉を頭の中で何度もリピートし、ようやく意味を理解した私は自分の顔が赤くなってきたことだとか体温がさらに上昇したことだとかを気にもせず自分の肩に乗せられた彼の頭に手を這わせて離す。作兵衛の顔は私と同じように真っ赤で、私はそっと彼の唇に触れるだけの口づけを落とした。
『…………それは、言っちゃダメだよ作兵衛くん。内緒にしてなくちゃ。ね?』
そうして抱きしめあいながら二人で笑った。
Hello, my brother!
(内緒の関係のはじまり)
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どう終わらせようか悩んだ結果こうなった