去年の誕生日は、病院にいた。
狭い個室で迎えた誕生日は、ちっとも嬉しくなかった。
部活終わりにみんなが来て、小さなパーティーをひらいてくれた。
少しの時間だけ、楽しむことができた。
でも、みんなが帰った後の、静かすぎる病室。
その夜のさみしさのほうがよく覚えている。



「幸村!」
「幸村君!」
「精市」
「幸村部長!」


パンっという音ととに、色とりどりの紙吹雪が舞う。
まぶしい。

部室の扉を開けた俺を迎えてくれたのは、笑顔をたたえた部員たち。
そして、


「誕生日、おめでとう!」


そんな、うれしい言葉。


立ちつくしたままの俺にブン太と赤也が駆け寄り、腕を引く。


「ほら、幸村君!早く早く!」
「今日の主役なんすから!」


柳生が俺の肩からバックをするりと抜き取り、ジャッカルが椅子を引く。


「バックはこちらに置いておきますね」
「ほら!座ってくれよ」


椅子に腰をおろすと仁王がパーティー用の三角帽子を取り出して、俺にかぶせる。


「プリッ。よく似合っとるぜよ」


目の前には、可愛らしくデコレーションされた大きすぎるほどのケーキ。
俺の年と同じ数のロウソク。
そこに、蓮二が1つ1つ火をつけていく。


「丸井を中心に、ここにいる全員で作ったケーキだ」


いつの間にか、部室の電気は消されていた。
カーテンによって外の光も遮断された室内を、ロウソクの火が優しく灯す。


「Happy Birthday to You・・・」


俺を囲むようにして立ったみんなが、うたう。
ああ、やばい。
そう気づいた時にはもうだめだった。
こみあげた涙が止まらない。
ぬぐってもぬぐっても、あふれてくる。

肩に、手がのせられる。
振り向けば珍しく照れたような顔をした真田と目があった。
マメだらけの手で、不器用に俺の涙を、ぬぐう。


「…幸村。誕生日、おめでとう」


カッと熱くなった頬を隠すように真田から顔をそむける。
大きく息を吸い込み、ゆらゆらと揺れるロウソクの火を一気に吹き消した。
同時に、再び鳴り響くクラッカー。
差し込む光。
やっぱり、まぶしい。


「さって!ケーキ切るぜぃ!」
「丸井先輩!早く!俺、待ちきれないっす!」
「ブン太、ちゃんと平等に切れよ」

「まったく、あいつらガキじゃのう。ケーキなんかにがっつきよって」
「そういうあなたの手にもすでにフォークが握られていますが?」

「…たるんどる」
「いいじゃないか、今日ぐらい。精市、大丈夫か?」


蓮二が手渡してくれたタオルにぬれた顔を埋める。
目を固く閉じ、涙を出しすくす。
次に顔を上げる時には笑顔で。
そう決めて。



今年の誕生日は、いつもと変わらない日常の中にいた。
朝練をして、授業を受けて、部活に向かう。
部室の扉を開くと、大切な仲間たちがそこにいて、笑顔と拍手と「おめでとう」という言葉で迎えてくれた。
去年の誕生日のことが、フラッシュバックのように頭を駆け巡った。
あらためて、戻ってこれたことの、俺を支えてくれる仲間がいることの、喜びをかみしめた。



「みんな、ありがとう!」






グリーティングボイス



(HAPPY BIRTHDAY!)




2012/03/05


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