あの冬、何かがおかしくなりはじめた。

思うように体が動かせない。
ラケットも握れない。
不安と、憤りだけが増し続けた。


あの春、何もかもを捨てようとした。

毎日徐々に、でも確実に、体の自由が無くなっていく。
もう二度とテニスができないかもしれない。
その事実を、弱い俺は受け入れることができなかった。
そんな俺を救ってくれたのは、仲間たちだった。


あの夏、たった1つを掴み取りたくて、走り続けた。

手術をして、リハビリをして、再びコートに立った、夏。
立海の部長としての強い俺を、取り戻したと思った。
それでも、追いかけ続けたものには、届かなかった。
夏の終わりは、俺の中の何かも終わらせた。


あの秋、何かがぽっかりと無くなってしまった。

あの夏の残像は消えない。
頭の中で繰り返されるあの瞬間に、幾度も唇を噛み締める。
心の中で、俺の芯となっていたものが、揺らぐのを感じた。
また、弱いただの幸村精市が戻ってきた。


あの冬、大切な何かを見つけた。

テニスは俺自身。
俺は、何故テニスをするのか。
俺が、テニスを続ける理由は。意味は。
それを見つめなおしたとき、俺はテニスが好きなんだ、という当たり前すぎて見失ってしまっていたことを、思い出した。



そして。


この春、何かを託して、旅立ちのとき。

病気に打ち負けそうになったこと。
仲間に支えてもらったこと。
テニスを再びできるようになったこと。
…決勝で、負けたこと。
全てが今の俺を作り上げてきた出来事だったと受け入れる。
弱い幸村精市も、強い立海の部長も、どちらも本当の俺だ。

辛かったことも、悔しかったことも、楽しかったことも、嬉しかったことも、全部全部このコートに詰まっている。
立ち続けたこの場所に、ありがとうと告げる。
眺め続けたこの景色に、さようならを告げる。



この春、卒業のとき。






春光



(春の日ざし、そそぐ)




2012/03/10


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