違和感を感じていた。
自分が部長と呼ばれることに。
俺の名前につく「部長」はただの肩書だ。
俺にとって「部長」は、あの人ただ一人。





「幸村部長!」


俺がそう呼べば、幸村部長はすぐ振り向いて、俺を見て笑ってくれる。
ひらひらとこちらに振られる掌に呼ばれるように、幸村部長のそばに駆け寄った。


「赤也。珍しいね、校内で会うなんて」
「そうっすね!だから思わず声かけちゃいました!…あ、今って大丈夫っすか?」
「俺はいいけど、お前は?」
「問題ないっす!」


幸村部長の言う通り、この広い校舎内ではなかなか先輩たちと出会うことがない。
(丸井先輩だけは購買でやたら会うけど)
引退した後も先輩たちはしょっちゅう部に顔を出してくれる…というかしごいてくれてるけど、校内で会うのは本当に久しぶりな気がする。
それも大好きな幸村部長だ。
次の時間は英語の小テストだったけど、そんなのどうでもいい!


「それにしても、俺はいつまで部長を続けなきゃならないんだ?」
「へ?」
「今の部長はお前だろ?切原部長」
「…幸村部長にそう呼ばれると、すげー変なカンジっす」


腕を組み、不思議そうな顔で俺を見る幸村部長。
テニスコートでの幸村部長は鬼のように強くてかっこいいけど、制服姿の幸村部長はなんていうか…ふわっとしてる。
かっこいいことには変わりないけど。


「俺にとっての部長は、幸村部長だけなんです!」


思った以上に大きな声が出てしまい、周りにいた奴らが目を丸くしてこちらを見ていた。
やべっ、と思って幸村部長を見上げれば、口元に手を当てて笑っている。
どうやら怒ってはいないみたいだ。
これが真田副部長だったら変ないちゃもんつけられて怒られていたと思う。
ふうと息をつき、俺は言葉を続ける。


「たしかに今の立海テニス部の部長は俺だ。部員も俺のことを切原部長って呼んでくる。だけど、俺にとっての部長は、幸村部長なんです!だから幸村部長のことは、部長って呼び続けます!部長がダメっつっても俺は、俺だけは幸村部長って呼びますから!!」


幸村部長の手が、こちらにのびる。
そして、デコピン。
神の子のデコピン、めちゃくちゃ痛い。


「〜っ!!!!」
「あれ?痛かった?赤也もまだまだだね」
「そのセリフは幸村部長のじゃないっす!」


こうやってふざけたことをしてくれるのも、コートの外にいるときだけだ。
嬉しいけど、デコピンはマジで痛い。


「俺にとって、赤也はずっと可愛い後輩だよ」
「可愛くなんかないっす」
「顔じゃなくてな。とにかく俺にとってはお前は可愛い存在なんだよ。わかるか?」
「…っす」
「だから、赤也にとって俺がずっと部長という存在でいられるなら、それは嬉しいことだよ」


じゃあな、そう言った幸村部長は俺に背を向けて、階段を上っていった。
…これは、部長って呼んでいいぞってことなのか?
にやけそうになる自分の口元に気が付いて、慌てて口を閉じた。
デコピンをくらった額をさすりながら、俺も自分の教室へ向かおうと、幸村部長とは逆の方向に足を踏み出す。
響き渡るチャイムの音が、やけに耳に残った。






きらきら



(いつだって俺の中で輝いている)




2012/03/08


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