「真田と俺、どっちが疲れてると思う?」


部員たちから預かった花を花瓶に移し替えているとき、幸村のものとは思えないほどの冷たい声で投げかけられた言葉。


「今日もたくさん練習してきたんだろ?朝も放課後も。もしかして昼休みもか?今は気基礎練を中心にしてるんだってな。蓮二にこの前聞いたよ。真田、お前にとっては基礎練なんて物足りないだろう。…いや、なんだかんだお前って基礎は怠らない奴だったっけ。まあ、どっちにしろ1日ベッドの中にいる俺なんかより、お前のほうがよっぽど疲れてるよな」


疑問形であって、それは問いかけではなかった。
俺への悪態のようであって、これは幸村の自虐だった。
誰よりも何よりもテニスを愛している男が、コートに立つことはおろか、ラケットを握ることさえできず、日がな一日床に就くしかない己をどう思っているのか。
想像に容易い。


「…俺とお前では、比較する意味がなかろう」
「ああ、悪かった。こんな寝たきりみたいな俺と、テニスをしてきたお前とじゃ比べる意味もなかったな」


想像は、容易い。
だが、幸村の気持ちを俺が共有することはできない。
そんなこと、幸村も望んではいないだろう。
今の幸村に、俺は何をしてやれる?


「聞いているのか?真田。返事をするのも億劫なくらい疲れているとでも言いたいのか?」
「…幸村」
「それとも、こんな俺の相手をするのに疲れたか?」


幸村の頭に、手をのせる。
力加減はわからない。
俺なりに、幸村の柔らかい髪を撫でる。


「…なんだよ」
「俺は、お前がいなければ何をしていても物足りない」
「…っ」
「俺の相手が務まるのもお前だけだ」
「はっ、えっらそうに…」
「俺を疲れさせたいのなら、お前が早く戻ってくることだな」


真田のくせに。
小さくそう呟いた幸村の手が、シーツを固く握りしめているのを見た。





嘆き余る



(心の叫びを、聞いた気がした)




2012/03/06


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