「おや、珍しい客人じゃのう」


幸村精市が屋上に足を踏み入れるのと同時に、頭上から聞き慣れた声が響く。
一瞬の間をおいて給水塔を見上げれば、仁王雅治がこちらを見下ろしていた。


「まるで自分の場所みたいに言うね」
「授業中の屋上は俺のもんじゃき」
「へえ。なら俺は帰ったほうがいいかな?」
「プリッ。お前さんなら大歓迎ぜよ」


仁王の言葉に微笑むことで返事をし、幸村の足は本来の目的の場所へと向かう。
広く殺風景な屋上の中で、唯一鮮やかな色を持つ場所。
屋上庭園。
緑が茂り、色とりどりの花が咲くその場所に、幸村は腰をおろす。
まるで、ガラス細工を扱うかのような手つきで、紅色のつぼみにふれる。


「幸村、なんで授業中にこんな場所にきた?」
「そっくりそのままその言葉をお前に返すよ」
「俺はいつもここにいるぜよ。ただのさぼりじゃ」
「なら俺も、そういうことにしておくよ」


給水塔から飛び降りる。
猫背を隠そうともせずに歩き、幸村の隣にかがむ。
白い指にふれられた、紅のつぼみ。
花びらが少しだけ開きかけたそれは、ひどく不安定に見える。
仁王の視線に気が付いた幸村が、そっとつぼみから手を離した。


「もう少しで咲きそうなんだ」
「…俺にはわからん」
「咲くとこ、見たくてさ」
「…いつ咲く?」
「もう少し…?」


そうか、とだけ返し、中途半端に浮いていた尻を、冷たいアスファルトの地面に押し付けた。






瞬間を



(花を愛でる君を愛で)




2012/03/06


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