「好きだよ。」


「うん。」


「ごめんなさい。」


「うん。」



「多分、もう、だめなの。」





うん。
わかってる。知ってるよ。


こうなったのが全部俺のせいだってことも、
下向いたまま泣きそうになってる君をそうさせたのは俺だってことも、



全部、知ってるよ。





「ごめん ね、秋のことが嫌いになったんじゃ、ないの。
秋のこと、今でも大好き、なんだよ?

だけど、 ね、?」







これからも秋のことずっと大好きでいれる自信がないの。






ずっとわかっていた予想通りの言葉のはずなのに、彼女の声で直接言われたそれば予想以上の重さで俺の中におちていく。
酷く肩を震わせしゃくりあげながら言った君にかける言葉はいくらでもあるはずなのに、頭を撫でてあげることしか出来ない。
手のひらに触れるやわらかい髪が、名残惜しさを締め付けて離さない。









「俺が、不安にさせたから、」


「違うの、秋は悪くないの。私が、勝手に、」






軽いブレーキ音と共にさっき呼んでおいたタクシーがふたりの横に止まる。
俺が君にしてあげた、さいごのこと。2人の距離を放す、物理的な手段。






「ほんとに、ごめんなさい、」


「いいんだよ、もう。俺こそ、何にもしてあげられなくて、ごめん。


あの さ、」




頭を撫でていた手を離し、彼女の背中を押す。指先が離れた、その瞬間の空気が驚くほど冷たかった。


何?

背を押され、タクシーに乗り込み綺麗な涙を流しながらそう言った君に、

最後の愛の言葉。




次に会う時はもう、2人は他人のはずだから、せめて最後に言わせてほしかったんだ、

今自分に出来る限りの、精一杯穏やかな笑顔を浮かべて。







愛してたよ、一番に。これからも、ずっと








「っ、!ずるいよ、そんな、」






言い逃げなんて、ずるいよ



閉まったタクシーのドアの向こう、君がそう言った気がして。








窓越しに再び溢れだした彼女の涙を見る。

ああ、もう。
そんなに泣くなよ。君には笑っててほしいんだ。笑っててほしかった、だから、 離れると決めたのに。

無意識に彼女のそれを拭おうと伸ばした手は空気さえも掴めずに。






走り出したタクシーに背を向けた。
自分の頬を伝うそれは、確かに君を愛したという証。









ウォーターカラー・インブルー






(愛していたのは、本当だから)






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