恵まれすぎていたのだと思う。ぬるま湯に浸りすぎていたのだ。危機感が足らなかったのだ。家族がいて、守られながら周りの人々のように飢え死にすることもなく、凍死することもなく、ひっそりと暮らすことができたのだから。アラガミなんて空想上の生き物だと、そんなもの居ないのだと、否定し続けた。だって、こんなにもアラガミと無縁で幸せな生活していたのだから。でもそれはただ、まもられていただ、所詮空想の生活にしか過ぎなかったのだ。
だから、目の前で起こった出来事が理解できなかった。いや、理解したくなかったのだ。アラガミがいきなり家を突き破り、その衝動で俺は吹っ飛んだ。滲む景色の中、母さんと父さんの叫び声が聞こえる。逃げて、と。その言葉に従うように下半身に力を入れるが足は鉛をつけているかのように重くて動かない。じいっと薄らぼける視界の中、目を凝らす。
『か、さん…っ』
アラガミは確かに俺のすぐそこまで迫っていた。なのに、なんで、母さんと、父さんが、貫、か
『あ、あ…っああぁ…!!!』
どろり、赤く滴る、母さんと父さんの、血。まもられたのだと理解したときには母さんも父さんもピクリとも動かなかった。なんで、どうして、目の前で迫っていたアラガミよりもドロドロと流れる血が、俺にはよっぽど怖かった。あと少し、あと少しでアラガミがやってくる、怖くはない。なのに、どうして、
「おいっ、大丈夫か!!」
ひゅっ、べちゃり、何かが斬られた音共に顔面に液体がかかる、気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い!!
『ひっ、う…っ』
「っ!おい!!生存者だ!!誰か救護を!」
「こっちだリンドウ!」
ずっ、抵抗する余地もなく、母さんと父さんから離され、リンドウと呼ばれた男に抱えられる、イヤだ、イヤだっ
『と、さん…母さん…っ!!』
「すまない、すまない…っ」
謝るくらいなら、ここで見殺して。助けるくらいなら、ここで、放置してくれよ。俺の家族を、返してよ、ねえ。