金田



たまにだが、むしょうに前世のことを思い出して悲しくなるときがある。そういうとき、深夜こっそりと自室で一人度数の高い酒をのんでめそめそと泣いてそのまま寝ている。お酒には強い方ではないし、この方法が最善ではないことはわかってはいるつもりなのだが、ここにいるのは刀剣たちと式神と妖精さん、そして私だけ。ちょくちょく顔を見せてくれる幼馴染みだって、今じゃ私のせいで政府の人間だ。呼び出すのも忍びなかった。前世だったら、そう考えてはまた悲しみにくれお酒を浴びるようにのんで、号泣して、気がついたときには朝を迎えて、この繰り返しであった。今日も一人寂しく酒盛をしようと自室においておいたお酒に手をとる。瓶は軽かった。当然だ、昨夜ものんだのだ。その前も、その前も、ここ最近、ずっと毎日気がつけばお酒をのんでる。これがアル中というやつだろうか、この状況決して笑えない。今日はのむのを、やめよう。だけどお酒はとりにいこう。ないと落ち着かない。ああ本格的にアルコール依存症じゃないか。こんな自分、彼が見たらどう思うだろうか、いもしない人のことを考えたって、仕方がないのに。寝静まって物音一つしない本丸の中をお酒求め台所に一直線、ただひたすら歩く。外は月夜に照らされ、明るく、そして少し肌寒かった。ぶるりと震えつつも台所にはいる。次郎太刀に見つからないように、と棚の片隅に隠しておいたお酒を取り出す。ああ、よかった。次郎太刀には、見つかってなかった…。なんだか申し訳ないから今度次郎太刀にはお酒を買っておこう。よしそうしよう。そうと決まれば今日はもう寝よう。明日から断食ならぬ断酒、かあ。三分前くらいに今日はのむのやめようとか決意表明してたけど明日からに備えて一杯だけのんじゃえ、そう頭の中で悪魔が囁く。一方の天使は、なんて野暮なことはやめよう。勝敗は本丸で一番景色のいいこの部屋で瓶の蓋を開けているこの状況で察してほしい。


『あ〜あ、』

のんじゃったよ、やっちゃったよ、なきそうだよ、あいたいよ、かえりたいよ、何でこんな記憶もってるんだよ、すきなんだよ、蓋をしてたはずの色んな感情がどんどんでてくる。それに比例して瓶の中の酒がどんどん減っていくわ、涙はとまらないわ、散々だ。月はあんなにかわらないのにとか歌仙さんの真似して雅ぶって干渉に浸ってみるけど何一つ現状はかわらないどころか、寧ろ私の酒の弱さで意識が覚束ない、立ってみようとしたけどぐらぐらする、これ自室にかえれねえわ失敗した。もう知らね、ああでも、酒片付けないと、



ーーーー…



「あ、起きましたか?」
『まえだくん…?』


うっわなんだこれと思うくらいにはヤバイ、何がやばいって酒焼け声と視界がはっきりしないのもそうだけどとにかく頭いたいのと吐き気ともうとにかくヤバイ、のみすぎた水がほしいと思っていたら目の前に水が差し出されてた、前田くんが気遣い出来る子すぎて私が泣いた。

『あー…ありがとう、だいぶ視界がはっきりしてきた、ごめんね、お水ありがとう前田くん。』

「いえ、お加減は如何でしょうか?」

『ん、大丈夫。心配かけちゃったよね…ごめんね』


大分意識がはっきりしてきた。あれだ一人酒盛りしてたらのみすぎてそこで意識がなくなったんだわ、ていうかここどこだろう。そして今気がついたんだけど前田くん支えてくれてるとか本当ごめん、私は介護される人か、そうなのか。あれ?ここどこだよ、というか前田くん?なんでさっきっから視線合わせてくれないのかな?なんで黙ってるのかな?あれ?なんか、いやな、予感が…


「よお、酔っ払い大将、起きたか?」

『や、やげんさ…ん…』

嫌な予感あたったよ、ど真ん中命中しちゃったよ。命中したくなかったね?助けを求めようにも前田くんは目を合わせてくれないし、壊れた機械のようにギギギギギギと首を戻し薬研さんに視線戻すけどめっちゃ笑ってないね??土下座かな??土下座するしかないな??


『す、すみませんでした!!!』
「ん?大将は何に対して何で謝ってるんだ?酒を隠してたことか?それとも一人で酒のんでたことについてか?それとも夜遅くに本丸を彷徨いて挙句の果てに自室に戻らずそのまま寝たことについてか?」


わ、わあ、全部バレてら。後片付けしなかったの痛かったな…いや後片付けしたとして力尽きて廊下で寝てただろうしやっぱ天使の言うことに耳を傾けて心穏やかに

「大将、聞いてんのか?」
『ごめんなさい』

「あのな、大将。別に酒をのむなとは言わねえ。夜な夜な一人酒を嗜みたくなるのもわかる。けど、あんた一人で行動されたら何かあった時俺たちはあんたを護れねえ。大将がやられたら、俺たちはどうすればいい?なあ、大将…俺たちはそんなに頼りないか?」

『…ち、ちがっ』


心にぐっさりときた。頼ってないわけじゃない。寧ろ頼りにしてるのに、私は、そう感じさせてしまっているのか。ぐらぐらしてる身体だって前田くんのことを頼って支えてもらってるのに、こんなにも、伝わってないの。

『た、よってる、よ…頼ってる、今だって、』
「いいや、頼ってない。大将、この際だからはっきり言わせてもらう。あんたは俺たちを信用してねえんだ。信用しろとは言わねえよ、けどな、なあ大将、全部一人で抱えることないんだぜ。」


泣きたくなった、いや、実際には泣いていたのかもしれない。そんな涙なんか構ってられなかった。私が刀剣たちを信用していない?まさか、私は刀剣たちを信用してるし、頼りにもしてる。じゃなきゃ遠征とか出撃とか食事とか内番を頼んだりなんかしない、ただ、信用していないと思われているとしたらそれは私の恐怖心のせいだ。だって、刀剣たちとずっと一緒にいられるわけじゃないのだ。出会いがあれば別れは必ず訪れる。頼りっぱなしにしてしまったら、別れたときのことを考えてしまうと、それが恐ろしいのだ。ただでさえ今だってめそめそグズグズ前世を引きずっている女だ。刀剣たちとお別れしてしまったらもっと悪化してしまうに決まってる。これが彼らの言う信用していないことに繋がってるのだろうか。いいや、違う。本当はわかっているんだ。きっと彼らの言う通りなのだ。私は根本的に彼らを信用していないのだろう。私は言い訳を、御託を並べていたにすぎない。なんて情けない。刀剣たちはこんないい大人が、夜な夜な一人自室で酒を浴びるほどのんでバカしていたことも、寂しくて、苦しくて、つらくて、キャパシティーオーバーからの自棄酒だということも、全てお見通しの上で見て見ぬ振りをしてくれていたのに。でもならいっそのことずっと見て見ぬ振りをしてほしかった。何も言わず放っておいてほしかった。優しい彼らはきっと放っておいてなどくれはしないのだろうけれど。なんてわがままだ、知っていたけれども。



「なあ、大将。つらかったよな、もう、大丈夫だ。」

薬研さんの声が近い。涙がとまらない。悲しい。つらい。もうやだ。帰りたい。嗚咽が苦しい。頭が痛い。鼻水がやばい、もう一層の事全部放棄したい。


「今日はもう寝ちまえ、二日酔い辛いだろう?少し横になれば楽になる」
『…う、ん、うん…っ』

「おやすみ、大将」




「主君は、大丈夫でしょうか…」
「ああ、心配いらねえ、きっと大丈夫だ。」




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