神崎




俺は紆余曲折を経て、国家政府お抱えの審神者というやつになった、らしい。らしいというのは現状をイマイチ理解できていないからである。まあ落ち着いて聞いてほしい。


朝起きたら車の中だったのだ。まさに、な、何を言ってるかわからないと思うが状態だった。あ、もしかしてあれかな?親戚への挨拶かな?それとも家族旅行かな?どっちにしろ行くなんて聞いてねえぞと起き上がろうとしてふと気がつく、そこは某アニメでいう見知らぬ天井でした。驚きの白さならぬ黒さだよ、我が家の車の色グレーだよ、いやまてワンチャンあるぞ。もしかしたら親戚の車かもしれない!と恐る恐る壊れた機械のようにギギギと起き上がると近くからウオオオオオオと叫び声がして思わず俺もびっくりしてウワアアって叫んで跳び起きちゃったけどこれ俺悪くないと思う。

コホン、と咳き込んで落ち着きを取り戻したのかあの、と話しかけられるが、ちょっと待ってね、俺もそっち向きたいんだけどさっきの跳び起きた反動か動悸が…もしかしてこれが、恋?と茶番はここまでにして、申し訳ないんですけど、腰が…と言うとえ?何この人この歳で?みたいな顔を一瞬してたのを俺は見逃さなかったから。主にあんたのせいだからとも言えず大人しくされるがまま、ぐるりと前を向かされる。声の高さからお兄さんかなって思ってたけどお姉さんだった。すまん、でもそうだよな、人間切羽詰まったときキャーなんて可愛い叫び声なんてあげられないよな。なんて一人納得していたらお姉さんが、時間がないので要約だけ、と何処に隠してたのかわからない分厚い書類をドスンドスンとかなりの量を手渡され、スラスラまるで女子大生が某カフェで注文を唱えるように手慣れた様子で説明していく。俺は必死に聞こうと思ったけれどふかふかのシートといかせん朝方までゲームをしていたせいで瞼と瞼がごっつんこしちゃいそうなのを必死に食い止めるのでほぼ精一杯だった。はあ、と申し訳程度に気の抜けた返事をすると一つ咳払いをしてから、まあつまり要約するとですね、とあきれたようにお姉さんが早口で説明しだすが、なんでここでお姉さんがあきれるのか俺にはさっぱり理解できなかった。いやまず何で家の自室で寝てたはずなのに何で本人の許可なく車に乗せられてるの?とかどこにむかってるの?とかこれって俗に言う誘拐なんじゃないの?とか聞ける雰囲気じゃないからお口チャック。空気が読める日本人はつらいよ。とかまあぼーっと聞いてるフリしていたのがバレたらしく、お姉さんの素敵な笑顔の上に青筋が、ヤバイと思ったときには遅く、つきましたよと会ったときより数トーン下がった声でほぼ無理やり車から書類と、これから海外旅行でもいくのかと思うくらいのでかいキャリーバッグが7個くらい投げられ、車は去って行ってしまった。

…oh...何一つわからないままよくわからない場所に置いてきぼりくらってしまった俺はこれからどうすれば…ぽつんと一人突っ立っているとキキィイイイとさっきまで俺を乗せていた車が過激なブレーキ音を響かせながら凄まじいスピードで俺へと突っ込んでくる。一瞬帰れるのかな?とか期待を抱いたけどコンマ二秒後にはあ、これ俺死んだわ。と死を覚悟したとき顔面に迫る何かを確認した後、ガゴンッと頭蓋骨から響いたような音を最後俺の意識はズラックアウトしたのだった。



ぱち、ぱちぱちと目を開け、腕を伸ばす、バキバキ身体を鳴らし終える。うん、どこだここは。誰もいないようだが、というか俺の部屋より広いじゃん…広いけど和室はどうも慣れん。


「起きましたか?」
『………おやすみなさーい』


よし寝よう、知らない声が聞こえた気がするからもう一度寝よう。夢だよな、そうだ起きたら何かをフルボッコにする系統のゲームをしよう。そうしよう。最近知らないうちにストレスが溜まってたんだよな。だから車に乗せられて人攫いに近いような扱いを受けるような夢を見ちゃうんだ。あーストレスって怖い。定期的に息抜きしなきゃダメだな。


「わ、わーーー!寝ちゃダメです!起きてください!!」

『うるせえ!こちとら夜な夜な積みゲ消費し…て、え?』



う、うそーん。狐が喋ってる?いやいやいや、そんな、うん、ないないない。ヤダナ僕コレ以上目悪クナッチャッタラ瓶底メガネカケナキャナラナイジャナイカー、明日朝一番で眼科によろう。そうしよう、おやすみ。

「よ、よかった…やっと目を覚ましましたかってちょ、ちょっとお待ちください、お布団かけ直さないでください!瞼を閉じて寝ようとしないでくださいいいいい!!」






あの後強制的に俺に起きるよう攻撃してきた狐を羽交い締めにしたところで、これじゃあ動物愛護法に触れちゃう!と俺の良心が覚醒し狐を解放してやるとやっぱり狐が咳き込んで何をするのですか!とかキャイキャイ騒いだからやっぱり今から俺は眼科に行かねばならないのだと思った。狐って話さないよね?まだそこまでの技術確立してなかったよね?いくら技術進歩してるからっていって狐が話すだなんて、まさか昔のアニメにあったこれが…錬金術なのか…?と恐る恐る狐をみるがそれらしい傷跡とか貌はしていないぞ…?


「サポートさせていただきますこんのすけと申します。」


あ、これガチで本当に話す狐だわ。






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