家を飛び出してきた。後悔はしてない、もうあいつの操り人形はうんざりだ、…母さんも、こんな気持ちだったのだろうか、今となってはもう知ることすらできないが、それでも、またあの金糸雀のような透き通る声で、あの太陽の光をたくさん浴びて育った向日葵のような笑顔で名前を呼んで欲しかった、優しく頭を撫でてもらいたかった、また褒めて、欲しかった。留めなく溢れてくるこの涙を母さんが見たらなんと言うだろうか、想像して、また涙がでてくる。考えなければいいのに、何故だろう、悲しい?痛い?辛い?一つじゃないんだ、全て、なんだ。母さんは全てを背負っていたんだ。なんて未熟、なんて滑稽、なんて、憐れ。ぎい、ぎぃ、錆びれた鉄の擦れる音に暫し耳を傾ける。


「ねえ、どうしたの?」

『、』

「具合悪い?」

『る、さい』


「?」


『っうるっさいんだよ!あっち行ってくれ!!』


やめてくれ、話しかけないでくれ、公園で独りブランコにのって泣いている男の子をみて惨めだとでも思ったんだろ?こんな時間になってでも迎えにこない男の子を憐れにでも思ったんだろ?…、女の子に八つ当たりだなんて最低だな、母さんに怒られて、しまう、ああそうだった俺にはもう怒ってくれる母さんなんて、ちらりと女の子をみる、びくびくと肩を震わせ目には涙がうっすらと浮かんでいて、締めつけるような罪悪感に襲われる、お、れは、悪く、ない、俺は悪くない…っんだ、なのに、なんで…、なんで


『ち、くしょ…っう、んで、俺ばっか!』

「、痛い?」


『ああ、痛いさ!辛いさ!悲しいさ!何で俺ばっかり、お、ればっかり!違う、違うんだ俺が我が儘だったから、母さんに褒めて欲しかったから、俺が母さんがどれだけの想いを背負って生きているか気がつけなかったから…っ俺が、俺、がっ』



弱かった、から。認めたくない一心で声には出せなかった、何で俺はこんな見ず知らずの女の子に醜態を晒してるのか、もう全てがぐちゃぐちゃして、何もわからない、ぎりりと強く握り締めていた手に不意に何かが触れる、ああ、あったか、い


「こうするとね、安心するの」

『、ん』

「ハンカチ、いる?」

『いら、ない、』


あったかい、ああこれが、優しさ。あたたかくて、くすぐったくて、なきたくなる。

『…あ、りがと』

「うん、どういたしまして」


ちらりと盗み見る、凡庸な言葉で表すのは申し訳なかったが、さっき見たときよりも彼女はとても美しく見えた、手と手が触れ合っていた時間は長くも、短くも感じた。彼女は母親に連れられ帰っていった。夕焼け空の下手をつないで、羨ましいと思わなかったと言ったら嘘になる、でもいつまでも無いものに縋っていてはなにもならない、俺には目標ができた、やってやる、やってやるさ、全てやり終えたら、感謝の気持ちを伝えるからそれまで前を進んでいて、どうか立ち止まらないでいてね




剞「界は終わらない



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