44.ミツバ篇6
「手を尽くしましたが···」

「そうですか···ありがとうございます」


沖田さんたちが出ていってから2時間ほど経った頃、担当医から言われた言葉。


「ミツバさん···」


私は、人工呼吸器や点滴、心電図等を外されたミツバさんの元に案内された。


「なるさん···ありがとう」

「ミツバさん···」

「泣かないで···私、もっとあなたとお話したかった。そーちゃんのこと、あなたのこと···。そーちゃん我儘で意地っ張りで弱音をなかなか吐かないし、他人に自分が弱っている所を見せない子···。だからね、あの子を支えて欲しいの。この間、2人を見ていてね、なるさんなら出来るって、そーちゃんを···支えてくれるって」

「私と沖田さんはそんな仲じゃないです···」


恋仲でもない私がそんなこと出来るのだろうか···。



「ふふ、大丈夫。恋人にならなくてもいい。友達のままでもいいの。あの子の話を聞く相手にでもなってくれればいいの」

「···話し相手ならいくらだってなってやりますよ」

「ごめんなさいね、なるさんに辛い思いさせてるわよね、死に際に立ち会うなんて」



ミツバさんは悟っている、自分がもう長くないことを···。


「そんなことないです。誰かが1人でも自分を看取ってくれる人がいるだけでも幸せなんだって亡くなったおばあちゃんが元気な頃言ってました。まぁ、最後は喋ることも出来ず、苦しんで逝っちゃいましたけど···」


あぁ、なんでこんなことを言っているのだ。



「泣かないで···ごめんなさい···ありがとう。ねぇ、そーちゃんは来るかしら···」

「絶対来ますよ、あの人ミツバさんのこと大好きですもん。だからミツバさんも頑張ってください。お別れの言葉、ちゃんと伝えてあげてください」


号泣しすぎて前が見えない。私は布団に顔を埋めて声を押し殺して泣く。そんな私をミツバさんは動かすのも精一杯であろのに私の頭を撫でてくれる。なんて強い人なんだろう···。


「姉上···」


沖田さんだ···。
私は顔を上げる。辛そうな今にも泣き出しそうな顔の沖田さん。



「···ごめんなさい···俺ァ···ろくでもねェ弟だ···。結局姉上の幸せ奪ってきたのは···俺。ごめんなさい、ごめ···」

「そーちゃんいいの。よく頑張ったわね。立派に···立派になった···」

「···姉上、僕は···俺ァ強く···なんかねェ」

「···だから···私···とっても幸せだった。あなた達のような素敵な人達と出会えて。あなたみたいな···素敵な···弟を持てて、そーちゃんあなたは···私の···自慢の···弟よ」


これがミツバさんの最後の言葉だった。
力なくベッドに垂れるミツバさんの白くて細い腕を手に取り、静かに泣く沖田さん。


私はその姿を声をかけることもせずただただ、呆然と眺めているしかなかった。



ーーーーーーー
ーーーー



ミツバさんの葬式が終わり数日、いつも通りの日常が戻りつつある中、沖田さんは上の空の事が多くなった。こんなんじゃ、敵の襲撃にあったら死んじゃうんじゃないかってぐらい。


「沖田さん」

「なんでィ···」


お風呂上がり、縁側で星空を見上げる沖田さんを見つけた。私は沖田さんと隣に腰を降ろす。


「元気を出せなんて言わないです。でも辛いなら泣けばいいじゃないですか」

「泣かねェ···」

「昔話していいですか」

「聞かねェ···」

「私2年前···」

「オイ!人の話きけ」


聞かないって言いつつも立ち上がらないってことはちゃんと聞いてくれるのを私は知っている。


「ミツバさんと似たような症状で私、おばあちゃん亡くしたんです。ミツバさんは最後、沖田さんに会えて、沖田さんにちゃんとお別れの言葉を言えた。でも私のおばあちゃん、苦しんで逝ったんです。言葉も交わせずに。なにより、私···大好きなおばあちゃん、看取ること出来なかったんです。だからなんだろ、沖田さんは幸せ者ですよ···大好きな人の死ぬところなんて確かに見たくないかもしれないです。でもお別れする方も残されるほうも両方辛いけど、最後に自分だけを見てくれる存在がいるっていうのはお別れする人にとっては最後の幸せなんです」



泣くつもりはなかった。たった少しでも私もミツバさんの人柄に惹かれ、大好きになった。だから別れは辛かった。なにより、沖田さんが辛そうにしているのは見るに耐えられない。


「なに泣いてんでィ···」

「ミツバさん、私大好きでした」

「おう···」

「だからもっとお話したかったです」


沖田さんを泣かすつもりだったのに、私が泣いてどうすんだ。



「ずっと辛そうな沖田さん見るのは嫌です。前みたいに私にでも土方さんにでも嫌味言って下さいよ、町人Bって言って下さいよ。私、私だけの前でもいいので、泣いてくださいよ」

「アホか···」

「辛いなら私が全部受け止めます···だから強がらないでください···わっ」


ふわっと香る石鹸の香り。


沖田さんが私を抱きしめたのだ。


少々驚いたが沖田さんの体は少し震えていて、私はそんな沖田さんを抱きしめ返した。沖田さんは私が抱きしめ返すとは思ってなかったみたいで、肩をビクッてさせたがすぐに私を抱きしめる力を強くした。


「沖田さん、私は、ずっと沖田さんの味方です」


その言葉で私の肩に顔を埋めて沖田さんは静かに泣いた。





辛い時は一緒に泣こう
(俺ァ···コイツのことホントに···ふ、姉上さすがでさァ)






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