41.ミツバ篇3
沖田さんが奢ってくれるとのことで江戸の街の散策へしぶしぶついてくる銀ちゃん。そういう私も例外ではない。だってあの沖田さんが奢ってくれるなんて···滅多にというか一生お目にかかれないかもしれない。


「なるさんは簪とか付けないの?」

「簪ですか?お洒落とかそういうのには疎くて···あと私見ての通り着物ではなく洋服派なんですよね」


簪は確かに可愛いけど、私は基本洋服だ。自分でも作ったりはしたが、街を徘徊していれば、少ないが洋服を売っているお店はちょくちょく見かけ、給料日に買い足すことが多い。


簪は着物や浴衣の時に身につける物だと思っているため、洋服ばかりの私には無縁の小物なのだ。


「あらそう···でも1つ持っててもいいと思うわよ。護身用にもなるし」


ミツバさんは私の手を引いて近くにあった簪専門店に入る。


店内には、色とりどりの飾りをつけた簪が置かれていた。


ガラス細工って以外に好きなんだよなぁと普段入ることの無いお店に心を躍らせていたとき、見つけたのは、夕刻時、たまに見かける青と橙が混じった色合いのガラス細工の装飾を施した簪。


可愛い···けど、たかっ!


え?
私の持ち合わせのお金じゃ無理だ。
パフェ代分しかない。


使わなくてもこの色合いなら欲しいなーって思ったけど値段をみて私は早急に諦めた。



「なんでィ買わねぇのか?」

「···沖田さん」

「金足りねぇのか···」

「···なん··で」

「顔に書いてありまさァ···すいやせーん」


沖田さんが店員さんを呼ぶ。


「この簪お願いしやす。あ、包まなくていいですぜ、コイツに買ったんで」

「ちょ、沖田さん!私払いますよ」

「金ない奴に言われてもねぇ···」

「うっ···」


沖田さんはお金を払うと、受け取った簪を私に投げた。いや、投げんなや···


「ま、プレゼントでさァ」

「ふふ、そーちゃんったら···」


受け取った簪を手に立っていると銀ちゃんが


「ここは男を立ててやる所だぜ、なるちゃんよォ」


コソッと耳打ちしてきた。


私はお店を出ていく、沖田さんの隊服の袖を掴み


「お、沖田さん、ありがとうございます。大切にするね」

「肌身離さず持ってとかねぇと殺す···」


沖田さんはそういうミツバさんの手をとって、歩き出していた。


いくらミツバさんにいい所見せたいからって、ここまでしなくていいのに。でも、正直すごい嬉しい···



「愛されてるねぇなるちゃん」

「は?」

「いやァ、あの、沖田くんがねェ···」


沖田さん絡みになると銀ちゃんはいつもニヤニヤしている。気持ち悪いし、ムカつくから背中を力いっぱい叩いてやったら逆に頭を叩かれた。酷い···。


その後はミツバさんがかぶき町も見てみたいということでかぶき町にきていた。なんでまたかぶき町なんだろう···この街いかがわしいお店しかないじゃん···あ、うそです。普通のお店もあります。


まぁ、引くぐらい沖田さんのシスコン振りを見せつけられ、私も銀ちゃんも笑顔が引きつっていたのは言うまでもない。




ーーーーーーーーー
ーーーーーー



「今日は楽しかったです。そーちゃん色々ありがとう。また近いうちに会いましょう」

「今日くらいウチの屯所に泊まればいいのに」


ミツバさんが嫁ぐ先の家は真選組屯所よりも大きくてお金持ちってすげぇなって銀ちゃんと同じ感想を持ってしまった。屈辱である。



「それじゃ姉上、僕はこれで」

「あっ···そーちゃん!···あの···あの人は」

「野郎とは会わせねーぜ。今朝方もなんも言わず仕事に出て行きやがった薄情な野郎でィ」


さっきまで機嫌がよかった沖田さんは不機嫌になりさっさと帰ってしまった。私は銀ちゃんとミツバさんに頭を下げて沖田さんの後を追った。



「ちょ、沖田さん!」

「···んでィ」

「突然不機嫌になってどうしたんですか」

「···うるせぇ」


この人、自分の事なんも言わないし、悟られたくないならもっと機嫌隠せ。あの人ってのは多分土方さんのことだろうけど。


「ミツバさん、いいお姉さんですね」


無言が気まづくなった私は沖田さんにそう言う。沖田さんは「当たり前でィ」だけ言ってそれ以上何も喋らない。これ以上何も聞くなってか?そうなのか?


「おめェは居ねぇのか兄弟」

「私?いないですよ。一人っ子って聞いてます。でも親戚のお兄ちゃんが私の事本当の妹のように接してはくれますけど」

「そうか···」

「おきた···」



沖田さんの瞳が暗い中揺れているのに気づき私は声をかけようとした際、沖田さんのケータイが鳴った。



「···!わかりやした、すぐ行きやす!なる!先帰ってろ」

「え···あ、はい」



沖田さんは私には目もくれず来た道を必死に走って戻っていた。





簪の意味と揺れる瞳
(ミツバさんに何かあったんだ)

[ prev next ]
Back to top

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -