3:お前が悪い
昼を知らせる鐘が鳴った。
鬼灯が先に席を立ち、何処かへと消えて行った。
昨日鬼灯と名前は、名前の昼食をどこで行うかを話し合った。
一緒に行くと良くない噂が立ちそうなので、鬼灯が先に行き、名前が少し経ってから待ち合わせ場所へと赴く。
その待ち合わせ場所とは、視聴覚室だった。
鍵は基本的に開いているが、中から鍵を閉める事ができる。
その上、昼食を食べに視聴覚室に来る者なんていない。
そんな利点を考えての事だった。
名前がそっと視聴覚室の戸を開けると、暗い中に鬼灯が座っていた。
後ろ手でそっと鍵を閉め、鬼灯に近付いた。
「人に見られませんでしたか?」
「多分...」
「じゃあ、さっさと済ませましょう」
そう言って鬼灯はネクタイを解き、ボタンを数個開けた。
「ごめんなさい、いただきます」
名前は丁寧にそう言って首筋に噛み付こうとした。
「待ってください、見える所に噛み付かないで下さい」
「えー...じゃあどこ...?」
「肩とか」
「吸いにくい...」
「なんでですか」
「要は、太い血管が流れてる所が一番吸いやすいんだよ。首とか...腕の関節とか...鼠径部とか...?」
「...鼠径部は無しとして。そこは頑張って下さいよ」
「時間かかっちゃうよ?」
「ちょっとくらいならまぁいいです」
「うーん...わかった...」
そう言って名前は鬼灯の肩に齧り付いた。
ぞわ、と鬼灯の身体に快感が走る。
「(血を吸われていってる筈なのに、なんで股間に血が集まるんですかねぇ...謎ですね...)」
いつもより少し時間をかけて、名前が口を離した。
「...はぁ。ご馳走さまです。...大丈夫?」
名前はぼーっと宙を眺める鬼灯を見て心配した。
「...いや、まぁご飯を食べればふらつきは無くなるんですけど...」
鬼灯はいきり勃つ自身に視線をやり、名前もそれを目で追った。
「コレ、どうにかならないんですかねぇ...」
「......ご、ごめんなさい...。その...普通の吸血鬼ならそこまではならないと思うんだけど...私はサキュバスの血も入ってるから...唾液にそういう作用が...」
「蚊と一緒って事ですね」
「...言い方よ」
「まぁいいです。トイレで抜きます」
「えぇ!?」
名前は顔をほんのり赤くさせて驚いた。
「えぇって...このまま歩いたら完全に変質者ですよ」
「た...たしかに...そうだけど...」
「貴女もサキュバスの血が入ってるならそれくらいで照れてちゃダメですよ。...では」
鬼灯はそう言って鍵を開けて視聴覚室を出て行った。
一人で照れている名前を置いて。
名前が鬼灯の家に住み始めて一週間が経った。
今の所毎日満足に食事を貰えている。
その分鬼灯も食べる量が増えたようだが。
そして一週間程経ったものの、未だに慣れない事がひとつだけあった。
風呂上がりの鬼灯だ。
鬼灯は一人暮らしの癖なのかいつもパンイチで頭を拭きながら出てくる。
「ちょ、だめぇ!」
今日も名前はそう言いながら、パンイチの鬼灯を視界に入れないよう目元を手で隠した。
「何照れてるんですか。いい加減慣れたらどうです?」
「慣れないし!早く服着てよ!」
「貴女サキュバスでしょう。男の裸でいちいち照れててどうするんですか」
「じゃあ鬼灯くん、私がその格好でお風呂から出てきたらどうよ!?」
「女性としての品性を疑います」
「そう言う問題じゃないし...!」
「...ほら、着ましたよ」
そう言われてちらっと指の間から鬼灯を見ると、確かに服を着ていた。
ふぅと溜息をついて、名前が口を開いた。
「あのですね、いつも血を貰ってて申し訳ないし、と思ってご飯を作りました」
「ほう。是非頂きましょうか」
名前はテーブルに皿を並べた。
勿論名前は人間の食べ物は食べれないので、鬼灯の分だけだ。
献立は、ご飯、味噌汁、焼き魚、ほうれん草のお浸しと、一般的な日本食だ。
「美味しそうですね。いただきます」
そう言って鬼灯はまず味噌汁を口にした。
「グフッ」
「え!?」
鬼灯は味噌汁を一口飲んで噎せた後、側にあった水をゴクゴクと飲んだ。
「美味しくなかった...?」
「な ん で 味 噌 汁 が 辛 い ん だ」
「私が辛いのが好きだから...?」
「ラ◯ちゃんか」
「ごめんだっちゃ」
名前は舌を出してコツンと自身の頭を小突いた。
「...もういいです。コンビニ行ってきます」
「うああ...ごめん...」
手軽な食事を買うために出掛ける鬼灯を見て、名前は申し訳なさが増した。
そして寝る前。
今度は名前の食事の時間だ。
「ごめんね...ごめんね...ご飯もまともに作れないのに...」
そう言って寝転んでいる鬼灯を拝む名前に、早くしろと鬼灯は言うのだった。
昼間と同じように肩口に齧り付き、こくんこくんと血を飲んだ。
何度吸われても慣れない快感に、鬼灯はムズムズとした。
そして思わず、名前の胸に手が伸びた。
「っうひゃぁ!?」
「...あ、すみません。つい」
名前が驚きの声を上げて口を離すと同時に、鬼灯も手を引っ込めた。
「.........エッチ」
「エッチな気分にさせてるのは誰だと思ってるんですか?」
「...させたくてさせてるわけじゃないもん...」
「だいたい体勢が悪いんですよ」
その体勢とは、寝ている鬼灯の上に、名前が乗っている状態だ。
「じゃあ起きてよ」
そう言うと鬼灯は体勢を起こし、名前は鬼灯の上から下りた。
「まだ飲むんでしょう」
「...もう触らない?」
「どうでしょうね。無意識でしたから」
「うぐぐ...!ま、まぁでもそれくらい!サキュバスだもん!知らないもん!」
知らないもんて、と思いながら鬼灯は再び名前に肩を噛まれた。
そして血を飲んでいる名前を抱き寄せる事で、何とか気を紛らわせた。
お前が悪い
(〜〜離して!)
(別に変なとこ触ってないじゃないですか)