8:キスとクマ
クリスマスがやって来た。
鬼灯と一緒に街中へ買い物に来た名前は、煌びやかな街の装飾に目をきらきらとさせた。
「初めてですか?こういうの見るの」
「初めて!冥界にもクリスマスはあるけど、なんか全然こんな感じではない...」
「そうですか。良かったですね」
「あ!なにあれ!かわいい!」
かわいい、と言って名前が指差したのは、名前が抱っこできるくらいの大きなクマのぬいぐるみだった。
名前は店頭に飾られているそれを手に取りぎゅっと抱き締めた。
「(.......可愛い...)」
鬼灯はクマを抱く名前を見てそう思った。
そんな名前がちら、と値段を見た後、ひえ、と声を上げてクマを元の位置に戻した。
「めちゃくちゃ高かった...」
「いくらだったんですか?」
名前は値段は言わず、静かに指を3本立てた。
「...ほう。買って差し上げましょうか」
「え、えぇ...!?いいよ!高いじゃん!」
「貯金ならたくさんあるので。あ、でも手持ちがないので下ろしてきますね。ちょっとここで待っていて下さい」
「え!?ちょっ...!」
鬼灯は名前の制止も聞かずにATMを探しに行ってしまった。
数分経って戻ってきた鬼灯は、クマと名前の手を掴んで店の中へと入って行った。
「これください」
「ありがとうございます。お包みしますか?」
「いえ、大丈夫です」
「ちょっと!正気!?」
名前は小声でそう鬼灯に話し掛けた。
「正気です。欲しかったんでしょう?」
「欲しかったけども...!」
「クリスマスプレゼントですよ」
会計を終え、店員は彼女へのクリスマスプレゼントだと思ったのか、名前にそのままクマを渡してきた。
そして名前はクマを抱きながら鬼灯と店を出た。
「あの...ごめん...ありがとう...」
「何故謝るんです?」
「物欲しそうにしちゃったから...」
「勝手に買ったのは私です。何も気にしなくていいんですよ」
「(なんか今日...優しい...)」
鬼灯と名前は再び家への帰り道を歩き始めた。
「あの、お礼にケーキ作ろっか...?」
「やめてください。それお礼じゃなくて恩を仇で返してます」
「ひど!絶対おいしいのに!」
「貴女のセンスはおかしいんですよ」
「むむぅ...」
「だいたい、なんで人間の食べ物食べれないくせに辛いのが好きとか言って辛い料理作るんですか」
「調味料一通り舐めてみてピリピリする感じが刺激的で良かったから」
「アホか」
コツン、と鬼灯が名前を小突いた。
「あ、ちょうどケーキ売ってますね。買って帰...ろうと思いましたが...ホールで買っても貴女食べれないんですよね」
「うん...ごめん」
「いえ、一人でホールケーキ食べるのも虚しいですしいいです」
そうして二人は帰宅し、買ってきた日用品をそれぞれ仕舞った。
名前は寝室の布団の横にクマを座らせ、ニコニコしながら眺めた。
そしてハッとした表情をし、居間でスーパーのお惣菜を食べている鬼灯の元へ駆け寄って言った。
「私...何もあげてない...!」
「...そうですね」
「お金もないから買えるものもないし...」
「いいです別に。気にしないで下さい」
「でも...。...そうだ。何か、私に出来る事とかない?」
「......そうですねぇ...」
鬼灯は顎に手を添えて考えた。
「ああ。じゃあ後ででいいんですけど...」
「うん。何?」
「キスしてください」
「............は、はいぃ!?」
「出来ないんですか?」
「出来っ...なくはないけど...っ」
「じゃあ、楽しみにしてますね」
「ううっ...何か大変な事を引き受けてしまった気がする...」
そして夜、名前の食事が済んだ後。
「さぁほら、食事が済んだのならキスの時間ですよ」
「う...うう...」
二人で布団で寝転んでいる中そう言われ、名前はあまりの恥ずかしさに布団を被った。
「こら」
鬼灯がその布団を捲る。
「は...恥ずかしいよ...ていうかなんでキスしたいの?」
「キスしてほしいからです」
「理由になってないし!誰でもいいんでしょ!?鬼灯くんモテるんだから別に私じゃなくても...」
「誰でも良くないです。名前さんがいいんです」
「っ......なんで...?」
「さぁ、なんででしょうね?」
「......ずるい...」
名前はそれからしばらく布団に潜っていたが、意を決して起き上がり、鬼灯に顔を近付けた。
「......目、瞑ってよ...」
そう言われて鬼灯は黙って目を閉じた。
「(......綺麗な顔...)」
名前は胸がきゅん、と高鳴るのを感じた。
「(あ...まただ...)」
名前はドキドキしながら鬼灯に顔を近付けた。
ちゅ、と一瞬だけ唇が触れて、すぐに離れた。
すると鬼灯がぱち、と目を開け、眉根を寄せた。
「短い。あと、そんなに口に力を入れなくていいんですよ」
「......だって」
「こうやるんですよ、」
鬼灯は名前に上半身だけ覆い被さり、名前に優しく口付け、柔らかく名前の唇を食んだ。
「っ......なんで、そんなキスうまいの...」
「キスは経験ありますから。ほら、もう一度」
「...もう、さっきしたもん」
「ダメです。やり直し」
「なんでよぉ...無理だよぉ...ドキドキして死んじゃいそう」
「元々死んでるでしょう貴女」
「...そうかも?」
「ほら早く」
名前は少しもじもじした後、再び鬼灯に近付いた。
鬼灯は名前を気遣ってか自ら目を閉じ、名前はゆっくりと距離を縮め、今度は柔らかく鬼灯に口付けた。
「っ...これが限界」
「...まぁいいでしょう。2回もしてもらいましたし。良く出来ました」
そう言って鬼灯はよしよしと名前の頭を撫でた。
鬼灯は吸血されて快感に支配されつつキスをされたせいで少し理性がなくなりそうになったが、なんとかその夜は眠りにつく事ができた。
キスとクマ
(あまり眠れなかった気がしますね...)