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「鬼灯くん、沖縄って行ったことある?」
「...いえ、ないですね」
「......行く?」
「...また唐突ですね...」

夕食を終えてまったりしていると、唐突に名前がそんなことを提案してきた。
どこからか貰ってきたのか、旅行代理店のチラシをバッグから取り出して鬼灯に渡した。

「多分旅行代理店に頼むより個人で行った方が安いけど」
「そもそもそんなに休めるんですか?」
「来週の土日お休みなの。珍しく。一泊二日になっちゃうけど...」
「土日は確かに私も休みですが...」
「じゃあ行こ?思い出作りにさ!」
「お金大丈夫ですか?」
「私を誰だと思ってるの〜?今すぐ鬼灯くんを嫁に迎えられるくらいのお金はありますよ!ふふん!」
「嫁は遠慮しておきます」

名前は早速ノートパソコンを開き、飛行機とホテルを探し始めた。


そしてやってきた旅行当日。
早朝に家を出て飛行機に乗り、二人でスヤスヤと眠っていたらすぐに沖縄県に到着した。
飛行機から降りるともわっとした暑さを肌で感じた。
そしてバスに揺られホテルに着くと、荷物を置いて一息ついた。

「ここに来るまでに疲れたぁ...」
「そうですね...」

気を抜けばそのまま眠れそうだったが、名前はせっかく来たのに楽しまないのは勿体ないと思い起き上がった。
そして用意していたビーチセットをキャリーケースから取り出す。

「そういえば、水着持ってませんよね?」
「うん。現地で買うつもりで来た」
「リッチですねぇ...」

ちなみに旅費は全て名前持ちだ。
鬼灯は出すと言ったのだが、名前が「私からのささやかなプレゼントだよ」と言って聞く耳を持たなかった。
必要な分だけ現金を持ち、携帯を入れて鬼灯と一緒に部屋を出た。
ホテルの一階に下りると土産売り場の隣に水着売り場が併設されていた。

「あっ意外と可愛いのあるじゃん」

名前は好みの水着を物色し始めた。

「鬼灯くんどんなのが好き?」
「貴女男友達にもそういうこと聞くんですか?」
「......いや聞かないかも......男友達いないけど」
「私のこと何だと思ってるんですか」
「えーっ......年下のかっこいいいとこ...?」
「...弟と答えなかっただけよしとしましょう」

結局名前は白のビキニを選び、鬼灯には朱色と黒のシンプルな水着を選び、ついでに浮き輪も手に取った。
名前が会計をしに行くと、お金を出す前に鬼灯がポンとお札を出した。

「えっ...いいよ」
「これくらい出させてください」

そう言って結局鬼灯に払われてしまった。
名前はありがとうとお礼を言った。
購入した水着を各々持って更衣室へ行き、着替えてからロッカーに貴重品だけ預けた。
更衣室から出ると既に鬼灯は待っており、逞しい背中を太陽の下に晒していた。
一瞬わからなかったがキャスケットで分かった。
名前は見慣れないその姿に妙に恥ずかしくなり、小声で鬼灯くん、と呼んだ。
鬼灯が振り向くと名前も何故か顔を後ろに向けた。

「...何してるんですか?」
「いや...なんか見てはいけないような気がして...」
「何しょうもないことで照れてるんですか。行きますよ」

鬼灯は名前の手を掴んでビーチまで歩いていった。
パラソルとレジャーシートをレンタルし、セットして腰を下ろした。
名前は日焼け止めを取り出して自分で塗れる範囲を塗り、塗り終えると鬼灯に日焼け止めを手渡した。

「背中塗って?」

語尾にハートマークをつけてお願いすると、鬼灯が眉根を寄せた。

「年下のかっこいいいとこにもそういう事言うんですか?」
「...だって自分じゃ塗れないじゃん」

鬼灯は諦めて手に液を出し、名前の背中に手を滑らせた。

「うひゃひゃ」

腰に手を滑らせるとくすぐったいのかびくびくと体を震わせ笑い声が上がった。

「(悪戯心がくすぐられますね...)」
「っひゃぁ!やめてってばそこばっかぁ、あはは!」

腰から手を離し背中に戻すと、鬼灯は耳元で名前に囁いた。

「男の人に慣れる練習、してみますか?」
「え...?」

鬼灯はそう言うと肩からデコルテに手を滑らせ、日焼け止めを塗った。

「、あ、ちょ...」
「日焼け止め塗ってるだけですよ?」
「......下心は?」
「あります」

正直にそう答えると名前はガシッと鬼灯の手を掴み振り払った。

「エッチ!スケッチ!ワンタッチ!!」
「男はみんなエッチなんですよ」
「ケダモノ!」
「はいそうです」
「開き直りすぎかよ!」

鬼灯は日焼け止めの容器を名前に渡した。

「じゃあ次は貴女が塗ってください」
「もーしょうがないな〜」

名前は鬼灯の後ろに回り、液をつけて背中に手を滑らせた。
鬼灯はぞわぞわしたものがせり上がるのを感じた。

「(これはいけませんねぇ...)」
「はい、終わり!」
「前は塗ってくれないんですか?」
「ばっ...!自分で塗りなさいよ!」

名前は鬼灯に日焼け止めを乱暴に手渡し、体育座りをしてふんと顔を背けた。

「さっきから目を合わせないのはどうしてですか?」
「ぐっ...!」
「まさかいい歳して男の裸が恥ずかしいなんて言いませんよねぇ?」
「べべべべっべつにっ...?」

そう言う名前の耳を鬼灯が軽く摘まんだ。
ビク、と肩が震えて名前がこちらを振り向く。

「耳赤いですよ」
「〜〜っうるさい!ええ!恥ずかしいですよ!何か悪いですか!」
「いえ、可愛いですよ」

可愛いと言われて名前は体育座りしている膝に顎を乗せて唇を尖らせた。

「...あ、でも...」

名前が何かを思いついたように顔を上げた。

「腹筋は触ってみたいかも。触ってもいい?」

鬼灯は名前の思わぬ言葉にキョトンとした。

「触るのはいいですけど...触って平気なんですか?」
「......あれ?そういえば...」

名前は一瞬考えた後、鬼灯の割れている腹筋に手を伸ばしてその凹凸をなぞった。

「ほおお......」

名前は感動しながら何度も手を滑らせて感触を楽しみ、確信した。

「なんか......自分から触るのは大丈夫なのかも...」
「ほう」

しばらく腹筋をなぞっていたが、手を離した後その上の膨らんでいる胸筋に手を掲げた。
名前がちら、と鬼灯を見る。
胸筋も触ってみたいようだ。

「.........」
「.........」
「.........どうぞ」

その声を聞いて名前は胸筋をそっと触った。

「ほあ...すごい...」

鬼灯は湧き上がる欲を抑え込もうと、頭の中で閻魔大王の顔を浮かべた。

「(......萎えた...)」
「...どうしたの?顔怖いよ...?」
「いえ、なんでもないです」

名前は満足したのか手を離し、浮き輪を膨らませ始めた。
できた!と声を上げると、鬼灯の手を取って海に向かって駆け出した。
浅瀬は人が多かったので、浮き輪をつけて深い所へ行った。
名前が海に浮かび、鬼灯が後ろから浮き輪に腕を乗せて体重をかける。
何かをしてはしゃぐわけでもなく、ただのんびりと二人で海に浮かんで波に揺られた。
鬼灯は目の前の綺麗なうなじをじーっと見ているとだんだんと悪戯心が湧き始め、ふぅ、と息を吹きかけた。
ビクッと名前が体を震わせた。

「ひゃっ!?なにすんの!」
「そこにうなじがあったので」
「なんて奴!もうダメ!後ろダメ!」

名前がそう言って暴れるので、鬼灯は仕方なく浮き輪から手を離し、くるりと浮き輪を反転させて名前を正面に向けた。

「じゃあこっちならいいですか?」

そう言って鬼灯は浮き輪の前側に、先程と同じように腕を乗せて体重をかけた。

「わぁ!ちょっだめ!ひっくり返る!」

浮き輪がひっくり返らないよう必死に背を反らせている名前を見て、鬼灯は腕を離した。

「あれもダメ、これもダメ」
「後ろのは鬼灯くんが悪戯するのが悪いんだよ」
「目の前にうなじがあったら何かしたくなるじゃないですか」
「なりません」
「...そういえば、貴女今相当無防備ですけど大丈夫ですか?」
「え?」

鬼灯は名前が足がついていないのをいいことに、浮き輪ごと名前を手繰り寄せて鼻と鼻が付くくらいの距離まで顔を近付けた。

「しようと思えばいつでもキスできますよ」
「っ...!?」

名前は慌てて手を突き出したが手は空回り、脚を突っぱねても力では叶わず、背を反らしても鬼灯は顔を寄せてきた。
鬼灯は一応名前の反応を見ていたが、怖いというより照れているようだ。

「だ、だめー!」

最終的に名前が鬼灯の口元を手で押さえることによって事態は収束した。

「なんでさっきからちょっかい出すのよ!」
「面白いからです」
「なっ...!そうやって人をからかってぇ...!」
「でも恥ずかしがっているだけで怖くはないでしょう?」
「、.........そういえば......なんでだろ...」
「下心がないと思ってませんか?」
「いや......あるでしょ」
「ありますね」
「......。んー...慣れたのかな...?」

うんうんと顎に手を当て考え込む名前を、鬼灯はまた前から体重をかけて遊んだ。
そして海を上がっても、鬼灯によるからかいは続くのだった。



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