名前は珍しく仕事が早く終わり、今日は自分が夕飯を作ろうか考えながら電車に揺られていた。
上司が昨日から出張に行っているため、特にサポートすることもなく自分の仕事だけ終えてさっさと定時で上がってきたのだ。

「(でも、この時間じゃやっぱ鬼灯くんのが早いかなー)」

駅に着き、どうしようか考えながら歩いていると向かい側の電車から鬼灯が降りてくるのが見えた。

「鬼灯くん!」

名前は鬼灯に駆け寄った。

「お疲れ様です。早いですね」
「上司が出張中だから早く帰れたんだ〜」

名前は少し何かを考えた後、あっと顔を明るくさせて言った。

「今日私がご飯作ろうかなって思ってたんだけどさ、もしよければこれからどっか食べに行かない?」
「たまにはいいですね」
「決まり〜!うちの職場の方結構色んなとこあるから、電車乗って行こ!」

二人は電車に乗って名前の職場の最寄駅へとやってきた。
高層ビルが沢山並んでいる。
名前は以前上司に連れてきてもらった高層ビルのレストランに行こうかと思ったが、作業着から着替えてるとはいえ動きやすいラフな格好をしている鬼灯を配慮して、手頃なお好み焼き屋に行くことにした。
席に着いて注文をすると、すぐにアルコールと具材の混ざった生地を持ってきてくれた。
名前は生地の入ったボウルを手にし鬼灯に掲げた。

「はい、任せた」
「...焼けないのにお好み焼き屋来たんですか?」
「焼けるけど...ほら、こういうのは男の人がやってわー素敵ーってなるやつじゃん?」

鬼灯はくだらないと思いながらもボウルを受け取って生地を鉄板に流し込んだ。

「わー素敵ー」
「まだ流し込んだだけですけど」
「ふふふ」

名前は上機嫌になりながらビールを流し込んだ。

「お酒、飲めるんですね」
「まあ、嗜む程度なら」
「飲めないと思ってました」
「失礼なっ!私だってもう大人ですよーだ!」

鬼灯は拗ねたような顔をする名前を可愛らしいと思いつつ、まだまだ子供ですよ、とも思った。
裏地が焼けてきたお好み焼きをヘラで綺麗に返すと、名前が拍手をしながら声を上げた。

「わー素敵ー」
「本当に思ってます?」
「思ってるよぉ〜」
「接待の時とか大丈夫ですか?」
「接待の時は気を張ってちゃんとやってるもん」
「じゃあ私を取引先だと思って接してみてください」
「えー.........って、接待でこういう店は来ないよっ」

名前はお酒が入って楽しいのかケタケタと笑いながらそう言った。
鬼灯は酒が弱いんだろうな、と思いながら焼けたお好み焼きを切り分けて皿に乗せてあげた。


「あーおいしかったー」
「ごちそうさまです」

どちらが払うかで少し揉めたが、今日は名前が誘ったので名前が払う、と言って素直に出してもらった。
名前はジョッキ一杯しか飲んでいないのにほんのり顔が赤くなっている。

「帰りますよ酔っ払い」
「ねーねー夜景見に行こうよー」
「はい?」
「この近くに有名なとこがあって行ってみたいのーねーねーおねがーい」

名前はニコニコしながら手を合わせて鬼灯を覗き込んできた。

「わかりましたよ...」
「わーいありがとー!だいすき!」
「はいはい」

フラフラとどこかへ行ってしまいそうな名前の手を掴み、名前に連れられ目的地へと向かった。
歩いて10分程度で大きな高層ビルに到着し、ほぼ最上階に近いところまでエレベーターで上がった。
平日で閉館時間が近いせいか、展望室は空いていた。
夜景の見える窓際へ行くと、名前はわぁーと感動の声を上げた。
うっとりとした顔をする名前を見て、鬼灯は可愛い、と思った。
先ほどまで手を繋いでいたので距離が近い。
鬼灯は無意識のうちに名前の肩に手を伸ばし抱き寄せようとした。

「あ、」

と名前が声を出し、我に返った鬼灯は手を引っ込めた。

「そういえばあのミサンガ覚えてる?」
「これですか?」

鬼灯はポケットからいつも持ち歩いている、切れて色が薄くなったミサンガを取り出した。

「まだ持ってたの?よくボロボロにならなかったねぇ。捨ててもいいんだよ?」
「せっかく名前さんに貰った大事なものですから」

えへへ、と笑う名前の頭を鬼灯は撫でた。

「ところで、どんな願いをかけたんですか?」
「えっ......えー...ひみつだよ」
「次に会ったら教えてくれるって言ってたじゃないですか」
「恥ずかしいもん」
「言ってくださいよ、気になります」

名前は照れ笑いをしながら少しもじもじした後、意を決したように込めた願いを教えた。

「......また会えますように、って」
「.........」

鬼灯はぶわわ、と胸に何かが広がり顔が熱くなるのを感じた。
反応のない鬼灯を不思議に思ったのか名前は顔を上げようとしたが、鬼灯が名前の頭をおさえることによって下を向かされてしまった。

「わっ...な、何っ...?」
「見ないでください」
「えっ?なんで??」
「なんでも」
「えー」

名前は反抗してくるかと思いきや酔っていて力もないらしく、大人しく下を向かされたままになった。
少し経って熱が冷めた頃鬼灯は手を離し、名前は顔を上げた。
名前は先程話していた時と変わらない鬼灯の顔を見て?マークを浮かべたのだった。


それから帰宅したのはもうあと30分で日付が変わるといったところだった。
明日は互いに仕事なため早めに風呂に入り就寝の準備をした。
二人でベッドに入ると鬼灯がふと疑問を口にした。

「このベッド、一人で寝るの寂しくないんですか?」
「うーん...別れたばっかりの時とかは寂しかったけど...今は鬼灯くんがいるから寂しくないよ」
「......はぁ」

鬼灯は呆れたように溜息をついた。

「なんで溜息つくのさ」
「いや...なんでもないです。それ私がいなくなったらどうするんですか?」
「...考えてなかったぁ......。どうしよ...売ってシングルに変えようかな」
「まぁまた彼氏ができた時のために取っておくのもありですけどね」
「できる気がしない...」

名前も別の意味ではぁと溜息をついた。
鬼灯はきっといい人がいますよ、なんて気の利いた台詞さえ言えなかった。
いずれ自分は帰ってしまうとしても、誰かの手に渡るのはなんともいえない気持ちになる。

「......鬼灯くんがもし彼氏だったら?」
「...はい?」

鬼灯は急に訳の分からないことを言い始めた名前を見た。

「...鬼灯くんがもし私の彼氏だったとしたら、どうする?」
「どうするってどういう事ですか」
「...触れないからつまんなくて別れる?」

鬼灯は眉を下げた名前の顔をしばらく見つめていたが、それをやめて寝返りをうち名前に背を向けた。

「...そういうこと、聞くもんじゃないですよ」
「なんで?」
「なんでもです」
「教えてよー...さっき私だってミサンガのこと教えてあげたじゃん」
「答えたところで、何か変わるんですか?」

鬼灯はがばりと起き上がり名前を見てそう言った。

「...なんで怒ってるの?」

名前はひとつの意見として鬼灯から聞きたいだけだった。
だから鬼灯が怒る理由も全くわからなかった。

「......もう寝ます」

鬼灯はそう言って寝転び再度名前に背を向けた。
名前はそれ以上追求することもできず、モヤモヤしたまま眠りについた。



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