久々に海に行こう、と名前が言い出した。

水着はないのでまた泳ぐことはできないが、それ以外の楽しみがあると名前が教えてくれた。
さすがに沖縄までは行けないため、また1時間と少し電車に揺られ、以前来たことのある海へと辿り着いた。
広がる景色を見て鬼灯は呟いた。

「変わらないですね」
「まぁ、そんなに経ってないしね」
「泳ぐ以外の楽しみ方とは、なんですか?」
「ここはね、とれたての海鮮を目の前で焼いてくれたり、あと何と言ってもしらす丼が有名!」
「ほう」
「美味しいもの好きでしょ?丁くんの頃は小さかったしなかなか難しいところもあるから海で遊ぶだけで終わったけど...」
「楽しみにしておきます」

二人は屋台でサザエの壺焼きを焼いてもらい堪能した後、海の方へと歩いて行った。
履いてきたサンダルを脱ぎ、流れる波に足をつけた。

「気持ちいい〜!」
「あんまりはしゃぐと転びますよ」
「大丈夫だって〜っわ、!?」

少し大きな波に脚を絡め取られ、名前がバランスを崩した。
名前は転ぶ、と思って構えたが、想像していた冷たさはやってこなかった。

「以前と立場が真逆ですね」

そう言う鬼灯の胸に名前は体を預け、抱きかかえられていた。
鬼灯の男らしい体に、ときめいたような恐怖感のような複雑な感情が襲ってきた。

「...?どうしました?」
「いや...なんでも...。ありがとう」

二人はその後海から上がり、日陰の岩に腰掛けた。
そよそよと涼しい潮風が頬を撫でる。
黄昏ていると唐突に名前が変なことを言い出した。

「鬼灯くんって、向こうに彼女とかいないの?」
「なんですか唐突に」
「いや、どうなのかなぁって思って。鬼灯くんって面倒見いいしどっちかっていうとイケメンの部類だし」

面倒見がいいのは貴女だからですよ、と鬼灯は思ったが黙っておいた。

「...いませんよ。と、いうより、正直そこまで暇じゃないです」
「そうなんだぁ。勿体無いね」
「そうでしょうか。そういう貴女はどうなんですか?」
「え?私?いるように見える?」

そう言って名前はカラカラと笑い、鬼灯はそんな名前をじっと見た。

「名前さんも愛嬌があってどちらかというと可愛い部類かと思いますが」

名前は一人で笑っていたかと思うと一転して照れたような表情で顔を赤く染めた。

「顔赤いですよ」
「う、うるさい。愛嬌があるのは鬼灯くんの前だけだよ多分」
「ほう。まぁ素直で良いことですよ」

ポンポンと鬼灯が名前の頭を軽く撫でた。
名前は再び顔を赤くして俯いた。

「し、しらす丼食べに行こ!」
「そうですね」

二人はサンダルを再度履き、店の方へと歩いて行った。
店の前には沢山のカップルや友人同士、家族連れが椅子に座って待っていた。
かなり待つかと思ったがそう時間もかからず中に入り、名前は小さめのしらす丼を、鬼灯はボリュームのあるしらす海鮮丼と味噌汁を頼んだ。

「...すごいね、それ全部食べるの...?」
「大した量ではないですよ」
「えぇ...」

鬼灯はそう言った通り本当に全てを平らげ、お腹がいっぱいになってギブアップした名前の分も食べたのだった。

「ありがとう。すごいね」
「どういたしまして」

二人はオレンジに染まりかけている空を電車から見つめながら、両親が帰る前に早めに帰宅した。
はしゃぎ疲れたのか鬼灯の肩に頭を預けて眠ってしまった名前を、鬼灯は優しく頭を撫でてから共に最寄り駅まで眠った。



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