電車に揺られて約2時間。
そこから更にバスで30分。
長い時間をかけて二人は漸く青木ヶ原樹海へと辿り着いた。

「うわぁ...初めて来たけどやっぱり雰囲気が...」
「やはりこちらでも沢山“います”ね」
「いるって何!やめてよ!」
「どうしますか?ここで待ってますか?」
「いや...それもそれでやだ...」

名前は仕方なく鬼灯に着いていくことにした。
鬼灯はまるで何度も来たことがあるかのように、ズンズンと森の中を進んでいく。

「ま、まってよー...」

名前は足元が悪いせいか鬼灯より少し後ろの方にいた。
鬼灯は溜息をつくと、名前の所に戻り名前の手を取った。

「え!?」
「はぐれてしまっては大変です。我慢してください」
「う...うん...」

鬼灯はその後名前を気遣い少し歩く速度を遅くした。
名前は初めて男の子と手を繋ぐ感覚に胸の中がそわそわした。
...子という歳でもないが。

「お嬢さんたち」

そうして歩いていると、二人の後方から声がかけられた。
二人が振り向くとそこには老人が立っていた。

「...なんでしょうか」
「心中なんてするもんじゃないぞ。案内してあげるから今すぐここから出ていきなさい」
「心中って...」
「心中する為に来たわけではありません。ご親切にどうも」
「こら、」

鬼灯がそう言い背を向けて歩いていくと、またも老人から窘める声が上がった。
鬼灯は名前にだけ聞こえるよう“走りますよ”と宣言すると、手を引いて走り始めた。
後ろの方で止めるような声が聞こえたが、走っているうちにその姿は見えなくなってしまった。

「はぁっ...はぁっ...つかれた......」
「樹海に来る人間はみんな自殺する為だとでも思ってるんですかねぇ...」

名前は疲れて息が上がっているが、鬼灯は全く息が乱れていなかった。

「運動不足じゃないですか?」
「うるさい...!知ってるし!」
「さて、着きました。が......」

鬼灯は向こうの世界で木霊のいる場所へと辿り着いた。
樹海自体は向こうと同じ構造のようだ。
だがそこには山神ファミリーの姿はなく、神らしきものの気配すら感じなかった。
あるのはそこら中にいる亡者の気配だけだ。

「いません...ね」
「そうなの?」
「ということはやはり、根本的にこちらの世界とあちらの世界は違うものなんでしょうか...」

鬼灯はせっかくここまで来たというのに、いい結果が得られなかったことに落ち込んだ。

「ま、まぁまぁ。きっとそのうち帰れるだろうし落ち込むことないよ」
「確認したかっただけなんです。付き合わせてしまいすみませんでした」
「いいって。気にしないで」
「...帰りましょうか」

そう言って再度名前の手を取り、樹海の出口へと歩き始めたその時。
名前が泥濘んでいる地面に足を滑らせ盛大に転んだ。
幸い鬼灯は巻き込まれなかったが。

「いったぁ...」
「何してるんですか...」

名前が立ち上がると、膝が擦り剥けて血が滲んでいた。

「うえぇ...すりむいた...つら」
「ここでは何もありませんから...とりあえず駅まで戻って傷口を洗いましょう」

二人は再びバスに乗りなんとか駅まで帰って来ることができた。
名前はその間ずっと痛い痛いと連呼していたが。
鬼灯は駅員に頼んで駅員室に入れてもらい、水道を借りた。
未だ痛いと連呼する名前の膝の傷口を水で洗い流し、駅員が親切でくれた絆創膏を貼ってやった。

「うぅ...ありがとう...」
「帰ったらまた消毒しましょうね」

そしてそこからまた2時間かけて、二人は家へと帰ってきた。
名前は自分の部屋に入るとゴロンと寝転んだ。

「長旅だった.....疲れた......怪我するし......」
「すみません付き合わせたばっかりに」
「ううん...でもおかげで初めて樹海も見れたし」

鬼灯は救急箱から消毒液を取り出し、名前の絆創膏を剥がして消毒し始めた。

「痛っ...あれ?鬼灯くん、教えてないのになんで処置できるの?」
「テレビでやってました」
「またそれか...テレビっ子め」

鬼灯は名前がいない時間暇でよくテレビを見ていた。
ニュースを中心に見るが、気分を変えてドロドロの昼ドラを見たりもしていた。

「昼ドラとか見ちゃうんだ...主婦かよ」
「他にやることないですからね」
「(主婦...)」

鬼灯は新しい絆創膏を貼った。
これで大丈夫だと思いますと言う鬼灯に名前は礼を言って再度寝転んだ。



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