次の日の夜、名前は他人に対して初めて自分の環境について語った。

「もう、言わなくてもわかってるかもしれないけど...」
「はい」
「私、は...」
「......」
「...父親から、いわゆる性的虐待、を、受けて...っ」
「ゆっくりでいいですよ」

鬼灯は肩を震わせ取り乱し始めた名前の背中をそっと摩った。


一番最初は中学に上がってすぐの頃だった。
お母さんもお父さんも元々そんなに仲は良くなくて、今も昔もよく喧嘩をする。
ある日喧嘩をした腹いせなのかなんなのか、突然私に乱暴をした。
それから若い体に味をしめたのか、月に何度も何度も同じことをしてきた。
もちろん嫌がったけど、力で敵うわけもなくて、いつもされるがまま。
高校に入るとそれがエスカレートして、頻度が上がると共に暴力まで振るってくるようになった。
それでもやっぱり力じゃ敵わなくて、いつもいつも必死に我慢してる。


「...正直、死んでしまいたい」
「......」
「でも、死ぬ勇気なんてなくて...」
「......」

鬼灯は自分の不甲斐なさに溜息をついた。
自分に今の状況を変えさせられるだけの力はない、と。

「...私に言えることは、父親が必ず地獄に落ちて制裁を加えられるってことしかないです」
「...うん」
「助けられることができずにすみません」
「ううん、いいの。どうしようもないもん...」
「.........」
「......最近ね、大人の男の人が怖く思えてきちゃって」
「私もですか?」
「大人の男ではなくない...?」
「失礼ですね。何百年生きてると思ってるんですか。いや死んでますけど」
「んー...なんか、鬼灯くんは弟って感じ」
「嬉しいようなそうでないような複雑な気分です」
「えぇー」

その後名前は元気を取り戻したのか、楽しく会話した後明日も早いから寝ようという話になった。

そして翌朝。
名前は普段通り学校へ行き、鬼灯は暇なので情報収集(という名の散歩)に出掛けることにした。
図書館へ行き、こちらの世界の地獄事情について調べてみようという考えだった。
だが地獄についての参考文献は少なく、辛うじて載っていそうな本を一冊見つけたくらいだった。

「(図書館よりネットの方がいいかもしれませんね...)」

まだ地獄の制度が整っていないのに見て良いべきなのか迷ったが、参考にもなるだろうとページを捲った。

「......!?」

だが地獄について書かれているページだけ、ゴッソリと文字がなくなり白紙になっていた。

「(どういうことなんでしょう...)」

おそらくこの世界の他人が見てもこうは映らないだろうと予測した。
ということはやはり、夢なんかではなく本当に時空を超えて来てしまっているのか...と、ぐるぐると考え始めた。
だが考えても考えてもなぜこちらの世界に呼ばれてしまったのか全く見当もつかなかった。
鬼灯は考えることを諦めて外へ出た。
最初は車や信号、高層ビルなんかにも驚いていたが、丁の時代から見ているのでもう慣れてしまった。
初めはあれは何これは何とやたらと質問ばかりしていたなと懐かしく思った。
鬼灯は名前と出会った公園へたどり着き、ベンチに腰を下ろした。

「(青木ヶ原樹海にでも行けば誰かしらと会えたりしますかねぇ...)」

鬼灯はそれからずっと色々なことを考え続け、気付けばベンチに座ったまま空はオレンジ色に染まっていた。

「(...そろそろ帰りますか)」

そう思って腰を上げ公園から出ると、前方に見覚えのある姿が見えた。

「名前さん」
「え?あ、鬼灯くん」

今日は特に何もされていないのか、びしょ濡れでもなく制服も汚れていなかった。
鬼灯は隣に並んで一緒に歩き始めた。

「今日は何してたの?」
「色々考えてました」
「色々?」
「...今度、富士の樹海に行ってみたいんですが」
「えぇ......なんで...?」
「知り合いがいるかもしれません」

名前は目を見開き、少し考えた後いいよと快く返事をした。



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