15:緊張


最近名前は鬼灯を避けていた。
撮影場などで見かけても見て見ぬフリをする。
ばったり会って声をかけられても、「急いでいるので」と逃げ出す。
鬼灯に会うと自分の決意と感情がごちゃごちゃになって、どうしたらいいのか分からなくなってしまうからだ。
自分でも原因は分かっている。
だがしかし、彼女にとってそれは邪魔な感情であり、持ってはならないと思っている。
本来押し込めなければいけないものだ。
だがどう頑張っても鬼灯に会えばその感情が顔を出してしまうので、毎度逃げ出していた。





名前は顔から血の気が引いた。
最近避け続けていたその鬼灯に捕まってしまったからだ。
今日はオフで、ショッピングに行った帰りだった。
ショップバッグを片手に自宅までの道を歩いているとポンと肩を叩かれ、振り返るとそこには久しく話していない鬼灯がいた。

「あ、っ......」
「...名前さん」
「...ごめんなさいっ...!」

そう謝って目と鼻の先にある自宅へ逃げ込もうとしたが、ガッチリと腕を掴まれて逃げることは叶わなかった。

「逃がしませんよ」
「.........」

鬼灯は名前をこちらに向かせ、両手で肩を掴んだ。
名前は困惑と悲しみが混じった顔をしていた。

「どうして引き止めたか分かりますよね?」
「.........」

名前は何も答えられなくて俯いた。

「名前さん」
「わ、かりません」
「では聞きます。どうして私を避けているんですか」

鬼灯が名前の顔を覗き込む。
フイ、と名前は顔を逸らした。

「......答えたくありません...」
「.........」

名前は鬼灯を避けているという罪悪感と何も答えられない申し訳なさに、だんだんと悲しい気持ちが強くなってきた。
瞳に涙が浮かぶ。
名前はギリリと下唇を噛んで堪えた。
鬼灯はそんな名前を見て強く出過ぎたかと思い直し、肩から手を離した。

「...すみません。私はお話がしたいだけです。ここでは色々と良くないので家に入れてはいただけませんか。...何もしないので」
「............、わかりました」

名前は鬼灯を家に招き入れた。
名前の家は1LDKの戸建てだ。
リビングのソファに鬼灯を座らせローテーブルにお茶を二つ置くと、名前は隣に腰を下ろして俯いたままぽつりぽつりと話し始めた。

「...どう接したらいいか、わからないんです」
「...どういうことですか?」
「......、感情と自分で決めたルールがごちゃごちゃになって、どうしたらいいのかわからなくなってしまうんです...」
「それは私のことが好きという解釈でよろしいですか?」
「............は、い...」
「...お付き合いすれば解決する話では?」
「っそんな簡単な問題ではないのです。前も言った通り私はアイドルなんですよ」

名前は顔を上げて抗議した。

「アイドルだって恋愛くらいするでしょう」
「...だめなんですよ...。......好きだけど、触れられない。鬼灯さんにわたしの気持ちなんてわからないですよ...!」

そう言うと名前は再び俯き、顔を覆って涙を流し始めた。

「好きなら素直に触れればいいじゃないですか」
「だからっ...」
「私なら素直に触れますよ」

鬼灯は俯いている名前の髪を優しく割いた。
そっと名前の両手を取ると、唇を重ねた。
名前は抵抗しようとしたが、両手を掴まれているためできなかった。
動かそうとしてもびくともしない。
短い口付けをすると、鬼灯は顔を離し彼女の手を解放した。

「...相手の許可も得ず触れるのはどうかと思います」
「嫌ではないようなので許可されたとみなします」
「鬼灯さんのそういうとこが...っ」
「そういうとこが?」
「......そういうとこが、好き、です」

そう言うと名前は、鬼灯の頬を手で包んで自ら唇を重ねた。
鬼灯は目を見開いて少し驚いた後、名前の後頭部に手をやり、舌を絡め反撃し始めた。

「......ん、ふっ...」

名前は自分のテリトリー内でキスをされたせいか、いつもより興奮して一層胸が高鳴り思わず声が出た。
鬼灯が名前の舌を甘く吸うと、名前もぎこちなく鬼灯の舌を吸った。
二人が唇を離すとつつ、とどちらのものか分からない透明な糸が引いた。

「...はぁ」

鬼灯は溜息をついて名前の肩に額を乗せた。

「...鬼灯さん?どうしたんですか?」
「我慢しているんですよ。黙っていてください」

名前は一瞬沈黙した後、鬼灯が耳を疑うようなことを言った。

「......我慢しなくて、いいですよ」
「............は?」

鬼灯は顔を上げて名前を見た。

「何を言っているのか自分で分かってますか?」
「...分かってますよ」
「そうですか。なら遠慮はいらないですね」

鬼灯は名前をソファに組み敷いた。

「まっ...!電気!そしてベッドで!」
「チッ...仕方のない子ですね」

そう言うと鬼灯は名前を抱き上げ寝室へと向かった。


緊張
(どうしよう自分から言っておいて緊張してきた)
(何十年ぶり......)
(ていうか何もしない宣言どこいった)



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -