11:現世にて


写真集を発売することになった。
初のグラビア撮影もあるので、スタッフ達は気合いを入れている。
今日は海でのグラビア撮影ということで、現世へとやってきた。

「(ビキニって...初めて着たなぁ...)」

現代の人間はこんな際どいものを着るのか、と軽くカルチャーショックを受けた。

「(海も久々に見たなぁ、泳ぎたい)」
「はいじゃあ名前ちゃん撮るよー!」
「あ、はいっ!よろしくお願いします!」

撮影はお昼過ぎに一度、夕方にもう一度行われた。
明るい写真と雰囲気のある写真を撮るためらしい。
かなり際どい写真も撮ったので、名前は今日だけでかなりの精神力を使った。

「名前ちゃんお疲れ様!かなりイイ写真撮れたよ〜!」
「お疲れ様です。ありがとうございます」
「こりゃ発売が楽しみだねぇ」

ニコニコしながらそう言ったプロデューサーは帰っていった。
今日の撮影はもう終わりで、明日また違う場所で撮影があるようなので、今日はこのまま現世で一泊する予定だった。
洋服に着替えた後、どこへ行こうかとるんるん歩いていると、前から見覚えのある男性が歩いてきた。
鬼灯だった。

「ほっ.....、!」

名前は名前を呼びかけたが、先日平手打ちしてしまったことを思い出して口を手で塞いだ。
バレたか心配したが、今日は洋服な上に角と耳を隠すためにキャスケットを被っている。
おまけに今は夜だ。
きっとバレないだろう、そう思い顔を俯かせながら鬼灯がいる方向へと歩いて行った。
擦れ違ったその瞬間。

「......名前さん?」
「ひぃ!バレた!」
「何してるんですかこんな所で」
「いいい、いえあの!いや!し、失礼しますねっ!!」
「待ってください」

話したくないと思った名前はそのまま逃げようとしたが、鬼灯により捕まってしまった。

「この前の、」
「ごっ、ごめんなさい殴ったりなんかしてしまって!殺さないでください!」
「貴女私をなんだと思ってるんですか」

鬼灯はなんとか名前を落ち着けると、続きを話し始めた。

「この前は酷いことを言ってしまってすみませんでした」
「いえ、こちらこそすみません...痛かったですよね...」
「大丈夫ですよ。...それで、あの女性のことですが。あの方はEU地獄のお偉いさんの奥様なのですよ」
「鬼灯さんは人妻がお好きということですか......」
「最後まで話を聞きなさい。彼女は誘惑をするのが本分です。どんな男性相手でも誘惑します。どうでもいい女性ならいいですが、外交上突き放すわけにもいかないんですよ。わかってください」
「............、......キスしたことは、謝らないんですね」
「...謝りません」

二人の間に沈黙が流れた。

「...いえ、貴女が嫌がっていたのなら話は別です。嫌でしたか?」
「......そういうこと聞くの、ずるいです...わかってるくせに...」
「検討もつかないですねぇ」

鬼灯は勝ち誇ったような顔で見下ろしてきた。

「い、嫌じゃない、です...」
「そうですか。なら良かったです」

鬼灯はそう言うと屈んで顔を近付けてきたので、名前は鬼灯の口元を手で押さえ抵抗した。
ハァ、と溜息をついて鬼灯は諦めた。

「もしこの後予定がなければ、食事でもどうですか。せっかく現世にいらしたんですし」
「そうですね。是非行きたいです」

そうして二人は煌びやかな街中に消えて行った。

十分に食事を堪能した後、鬼灯が泊まるホテルと同じだと知って、一緒に行く事になった。
鬼灯は視察で現世へ来ていて、ホテルも視察を兼ねて泊まるらしい。
フロントに到着して予約した名前を告げた。
すると大変な問題が起きていたのだった。

「も、申し訳ありません鬼川様!こちらのミスで部屋を確保できておりませんでして...」
「え...?」
「日中携帯の方にご連絡はさせていただいてたのですが...」

名前は仕事が終わってから携帯をチェックしていなかった。

「本当に申し訳ございません...他の部屋も、本日は満室でして...」
「え......じゃあ、今日は途方に暮れる感じ...?」

現実を突きつけられて、名前はガクリと落ち込んだ。

「まあ、いいです。他の宿当たってみます...」
「本当に申し訳ございません...」
「待ってください」

ここで黙って見ていた鬼灯が口を挟んだ。

「フリープランで予約したのですが私の部屋はシングルですか?」
「加々知様のお部屋は...いえ、ダブルのお部屋です」
「でしたら私の部屋に1名追加させてください」
「えっ!?ほっ...加々知さん!?」
「嫌ですか?」
「嫌というか...さすがに申し訳ないというか...」
「気にしないでください。お代は...結構ですよねぇ?」

鬼灯はフロントマンを眉根を寄せて見下ろした。

「もももちろん結構でございます!こちらのミスでございますので!」

フロントマンはフロントに頭がつくほど頭を下げ、名前の分の料金を無しにしてくれた。
名前は鬼灯に感謝したが、一夜を共にすると考えるととてつもない緊張感に駆られた。


「鬼灯さん、ありがとうございます。本当に助かります」
「大丈夫ですよ。こんな時間に外を彷徨かれるよりよっぽどいいです」

荷物を置き、ベッドに腰掛けて一息ついた。

「(ダブルベッドということはもしかして...鬼灯さんと寝る...!?)」

カッと顔が熱くなった。

「お風呂、先にいいですよ」
「、は、はい、ありがとうございます...」

生々しいセリフだ、と思った。
考えれば考えるほど名前はドキドキしてどうしようもなくなってきた。
そんな気持ちを振り払うようにして、着替えと入浴セットを持ってバスルームへと向かった。


現世にて
(なんて日だ!)



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