11

※R15くらい


「.........」
「.........」

名前は最近、通話していると急に黙り込む事が増えた。
微かにカリカリとペンが動く音が聞こえて、ああ勉強しながら通話しているんだなと気付かされる。

「勉強しているなら邪魔になりますし切りますよ」
「えっ!やだ!切らないで!」
「頭に入ってこないでしょう」
「やだぁ...黙っててもいいから切らないでぇ...」
「ハァ......」

ここまで自身の事を好きではいずれまた彼女ができた時どうするのか、と鬼灯は溜息をついた。
そう思いつつ、嬉しい事でもあるし今のところ彼女を作る気も無いのだが。

「名前は何故私の事が好きなんですか?」
「え”ッ......それ聞く?」
「昔はここまでじゃなかったと思いまして」
「...ま、まぁ確かにそういう意味で好きになったのは去年だけど...」
「憧れや親愛を恋だと勘違いしているのなら今のうちに身を引いた方が...」
「はぁー??ちがうし!!」

唐突に不機嫌な声を出した名前に鬼灯は驚いた。

「確かにお兄ちゃんは頼れるお兄ちゃんだし頭いいしかっこいいし憧れもあるよ、もちろんお兄ちゃんとしても大好き」
「.........」
「でも、違うの...」
「何がですか?」
「んー...上手く言えないんだけど...違う...。だって今までそんな風に思ってなかったし...それに......」
「それに?」
「......引かないでね?」
「?はい」
「私はお兄ちゃんを見ると胸がドキドキして顔が熱くなるし、一日中ずっとお兄ちゃんの事を考えてるし、お兄ちゃんとキスしたいって思ってるし、その先も...して欲しい、って思ってる...」
「.........」

鬼灯は名前の口からそんな言葉が出た事にとても驚いた。
そこまで思われていると思っていなかったのだ。
自分と考えている事が全く同じではないか、と鬼灯は思い、名前に驚くと共に自分の感情に自分で引いた。

「......引いた?」
「いえ......(自分には引いてますけど)」
「気持ち悪いって思ってるでしょ」
「思ってません。嬉しいです」
「ほんとに〜?」
「名前は私が思っている以上に私の事を好きなんだなという事は伝わってきました」
「へっへーん。伝わったなら良かった」

そう言って少し気恥ずかしくなったのか名前は再び黙り込み、ペンが紙を走る音が聞こえてきた。
しばらく二人共黙り込んだまま、名前は勉強をし、鬼灯は風呂にスマホを持ち込んでまったりと入浴した。
名前はしばらく集中していたせいで疲れたのか「んん〜」と伸びをする声が聞こえた。

「お兄ちゃんまだ起きてる?」
「起きてますよ」

わしわしと頭を拭きながらそう答えた。

「ね...嫌だったらいいんだけど、画面通話にしない...?」
「......まぁ、いいですけど」
「ほんと?ありがとう」

名前はわくわくとした気持ちで画面をタップして画面通話に切り替えた。
鬼灯も画面をタップして画面通話に切り替えると、パッと画面にお互いの姿が映し出された。

「うわ!?なんで裸!?」

画面の向こう側では、上半身裸の鬼灯が濡れた髪をわしわしと拭いていた。

「風呂上がりなので...」
「着ようよ!服!ていうかからかってるでしょ!!」

名前は照れながら画面を手で塞いだ。

「ええまあ、どんな反応するかなと」

鬼灯は照れて画面を隠す名前に気を良くし、言われた通りに服を着た。

「ほら着ましたよ」

そう言われて名前が遮っていた手を外すと、確かに鬼灯は服を着ていた。

「クマ、ひどいですよ」
「...夜遅くまで勉強してるから」
「えらいですね、と頭を撫でてやれないのが辛いです」
「うう...好き...」
「突然の告白」
「その気持ちにキュンときた...」
「どこか行きたい学校でも見つけたんですか?」
「あのね...お兄ちゃんと同じ大学行きたいの」
「...好きという気持ちだけで大学を選んではいけませんよ」
「だって高学歴じゃん」
「まあそう言われればそうなんですけど...今頑張っても入学した後も勉強大変ですよ?」
「が、頑張る...」
「...まあどこへ行くにしろ、勉強は大事ですからね。頑張ってください」

鬼灯は名前より先に寝る準備をし、布団に潜り込んだ。
そしてペンが走る音を聞きながら眠りについた。


それから数日経ったとある日。
鬼灯は上司に誘われて数人の同僚と共に飲みに行く事になった。
飲みに行くまでは良かったのだが、気分が良くなった上司はキャバクラに行こうと言い出した。
鬼灯は「私はそういうのは...」とやんわり断ったが、「硬い事言うなよ〜!」とバシバシ背中を叩かれ、行く気満々な同僚と共に行かされる羽目になった。
そしてキャバクラだけでは飽き足らず、キャバクラを出た後もソープに行こうなんて事を言い出した。
一人で行け、と鬼灯は心の中で思い「私はこれで...」と帰ろうとすると「まあまあ俺が奢るから!」と半ば無理矢理連行され、あれよあれよという間に店の中まで連れてこられてしまった。

「(帰りたい......)」

本当に帰りたい気持ちでいっぱいだったので鬼灯は特に指名もせず、出てきた女の子に連れられて部屋へと誘導された。

「えりかです。よろしくお願いします」
「ああ...」

何もしなくていいです、と言おうとしてそこで初めて女の子の顔を見ると、名前とそっくりな顔がそこにあり、思わず目を見開いて凝視してしまった。

「...?どうかしましたか?」
「いえ...知り合いに似ていたもので...」
「そうなんですか...。ごめんなさい。気まずいですよね」
「いえ...いやまあ...」

鬼灯はここに来て罪悪感でいっぱいになった。

「お話してるだけでいいんで、私」
「そんな事言わずに。せっかく来たんですから一緒に気持ち良くなりましょ?」

擦り寄られながらつつ、と股間をスラックス越しに撫でられれば、久々に女性に触られたせいか名前に似ていたせいか、どちらもなのか、ムラムラとした気持ちが湧き上がるのを感じた。
そのまま擦り続けられれば、あっという間に完勃ちしてしまった。

「大きくなったね?」

雌の顔をする名前似の女の子に鬼灯は更に罪悪感が湧き上がった。

「いえ、本当にいいんで...」
「私の事、その似ている人だと思ってめちゃくちゃに抱いて下さい」
「っ......」
「その子の事、好きなんでしょう?」
「......何故...」
「じゃなきゃこうはなりませんよ」

もう一度強く股間を擦られてぴくり、と腰が震えた。
鬼灯は欲に負けそうな自分に溜息をついて目元を手で覆った。

「罪悪感でいっぱいです...」
「本当に好きなんですね、その子の事。でも苦しいでしょう?まずはすっきりしましょう」

ちら、とそのそっくりな顔を見て、鬼灯は諦めたように口付けた。

結局巧みなマットプレイで一度イかされ、最終的に女の子の上で自ら腰を振ってしまった。
そういう行為が久々なのもあったが、罪悪感を抱きつつも乱れる名前(ではないが)に興奮し、無我夢中で腰を振った。
おさまらない自身に呆れつつその後もう一度同じ事を繰り返した。


「............はぁぁ......」

一通り終わってシャワーを浴び、鬼灯は固いベッドに腰掛けながら項垂れて深い溜息をついた。
欲に負けた自分に落胆し深い賢者タイムがやってきたのだ。

「私は......名前になんて事を......」
「そこまで落ち込むなんて、よっぽど好きなんですね...」
「.........女子高生なんですよ」
「えっ?」
「相手」
「......女子高生が好きなんですか...?」

驚いているような引いているようなその言い方に、鬼灯はそらそうだよな、そういう反応になるよな、と世間からの目を再認識した。

「女子高生が好きなんじゃなくて好きになった子がたまたま女子高生なだけです。そういう趣味はありません」
「びっくりしちゃった。それは確かに罪悪感でいっぱいになるかも...。でも、気持ち良かったでしょう?」
「......めちゃくちゃ」
「だから、自分一人で溜め込まないで時々来てまた私を抱いて下さい。その子だと思って」
「...気が向いたら来ます」
「うん。待ってます」

鬼灯は罪悪感を抱えたまま店を後にし、「先に帰ります」と上司にメールをして自分の部屋へと帰って来た。
店で楽しんでいた間に名前から着信があったが、申し訳なさが溢れてどうにも通話する気になれず、「すみません疲れているので今日はもう寝ます」とだけメッセージを送って早めに床についた。



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