「ねぇ、聞いてる?」
「......」
「ねぇってば」
「ちょっと待ってください」

名前は連絡があったからせっかく家に遊びに来たというのに、ひたすらノートパソコンに向かって仕事をする鬼灯に呆れ果てていた。
鬼灯とは互いに家を行き来する仲だが、今の所付き合ってもいなければ不純な関係でもない。
互いに大切な友達だと思っているが故、何年も清い関係が続いている。

「...もういい」

鬼灯は仕事の区切りをつけ、ノートパソコンを閉じて振り返った。

「...終わりましたよ。なんですか?」
「.........」
「名前」

ベッドに寝転がって背中を向けている名前の髪を優しく割くと、名前はパシ、と鬼灯の手を払った。

「触んないで」
「何をそんなに怒っているんですか」
「...もう会わないでって言った」
元カノと隠れて会っている事を言いたいのだろう、と鬼灯は察知した。
「何のことですか?」
「しらばっくれるんだ。へぇ」
「...はぁ...仕方ないじゃないですか...」
「はぁ?何が仕方ないの?」
「貴女には関係のないことです」
「ふーん。そういうこと言うんだね。何も知らないくせに」
「......何も知らないのは貴女でしょう」
「どうせ性欲処理がしたいだけでしょ。それともより戻したいとか思ってんの?」
「思ってません。じゃあ言いますけど貴女が処理してくれるんですか?」
「っ......」

名前は顔を強張らせた後、何とも言えないような顔をして下を向いた。

「ほら、できないでしょう」
「...できる、もん...」

何かを我慢するような顔で言った。

「そんな顔して言われても説得力ありません」
「...鬼灯なんて嫌い」
「そうですか」
「鬼灯だってどうせ私のこと嫌いなんでしょ!嫌いなら嫌いって言ったらどう!?」

そこでピリリリリ、と鬼灯の持ち歩いている携帯電話が鳴った。
鬼灯は画面を確認すると電話に出るために玄関の方へ行ってしまった。
少しして戻って来ると、拗ねている名前に優しく話しかけた。

「...すみません。行かないと」
「...帰る」
「戻ったらきちんと話をしましょう」
「話すことなんてない」
「こら名前」

ヒールを履いて出て行こうとする名前を、鬼灯は後ろから抱きしめた。
びく、と名前の体が震え、名前は胸に甘いものが広がるのを感じた。

「なに...すんの...」
「大好きですよ、わざわざ言わせないでください」
「......っ」
「わかりましたか?」
「......うん」
「仕事が終わったら連絡します」
「......うん」

耳元で囁くような鬼灯の声に、名前は顔と耳を赤くさせた。


「お前らそれで付き合ってないの...?」
「残念ながら付き合っていません」
「なんで?」
「なんででしょうねぇ。私が聞きたいですよ」

鬼灯は深い溜息をいた。
ちら、と時計を見ると1時を回っていた。

「可愛いんですよ名前は」

鬼灯は白澤に向かって自身の仕事用の手帳をポイっと投げた。

「可愛いのは知ってる」

白澤は投げられた手帳を拾って開いた。
クリアポケットの部分に名前が持っていたもの(見せびらかしてきたもの)と全く同じ2ショット写真が入っていた。

「お前もこれ持ってるのかよ...」

二人してどんだけだよ、早く付き合えばいいだろ、と小さな声で呟いた。

「そういえば貴方と名前はどういう関係で?」
「友達だよ。元カノの。相談事されたりたまに一緒に飲みに行ったりしてる」
「手、出してないでしょうね?」
「出せるわけないでしょ」

白澤は半笑いしながら、お前との事散々惚気られてるのに、と心の隅で思った。
ぺら、と次のページをめくると、そこには名前が口と手を拘束されている写真が入っており、白澤は顔を強張らせた。
写真の裏面には“Xは宝物の場所 目を閉じた方が見える事もある”と書いてある。

「早く付き合えばいいのに、と思ったけど...僕も名前ちゃんの事は可愛いと思ってるしなぁ」
「ふざけるな。誰がやるか」

白澤はそっと拘束されている写真だけ抜き取り、手帳をわざと鬼灯にぶつかるように投げた。

「いった...本当に殺しましょうか?貴方」
「できるもんならドーゾ」



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