「昨夜家を出た後、お前は病院なんかじゃなく元カノのいるホテルへ直行した」


鬼灯は薄い扉をノックし、開いた扉の中へと入った。

「連絡してこないで下さいと言ったでしょう」
「だって、会いたかったんだもん...」

彼女はそう言って鬼灯に抱きつこうとしたが、鬼灯はそれを避けた。

「会う時は私から連絡するからって言ったじゃないですか...困るんですよ。しかもわざわざ名前と会ってる時に」
「約束破ってごめんね?」

そう言って彼女は鬼灯の隣で服を脱ぎ始めた。

「やめろ」

鬼灯は彼女の脱いだ服を拾って彼女に押し付けた。

「...どうしたの?」
「帰ります」
「なんで?せっかく会いに来てくれたのに...」
「もう会うのはやめましょう」
「どうしてそんな事言うの?」
「名前が好きだからです」
「......っ」

彼女が唇を震わせて何かを言おうとしているうちに、鬼灯は扉の向こうへと消えていった。
そしてその後ホテルの駐車場で写真を撮られたのだ。


「...名前が依頼してきたという事ですか?」
「依頼っていうか、名前ちゃんが嫌いなその元カノがお前と会ってるかもしれないって不安そうに言ってきたから、友達としてちょっと相談に乗ってあげただけだよ」
「一部始終を見てたのに助けなかったんですか、私を」
「車に乗るところまでしか見てない。名前ちゃんにはお前の写真を見せてもらっただけだから、お前の名前も知らなければどうやってここまで連れてこられたのかも知らない」
「.........」
「撮影して現像しに家に戻った。気付いたら僕もここにいたんだよ。汚いバスルームで被写体と一緒に」
「仕事にしろ仕事でないにしろ人のプライバシーを侵害するなんて最低ですね」
「なんだよ。名前ちゃんを裏切ったのがバレて怒ってんの?」
「裏切ってなんていません...っ」
「名前ちゃんと付き合う前にちゃんと言っとけよ?「私は性欲モンスターなので貴女だけじゃ足りなくなるかもしれません」ってよ」
「.........」

鬼灯は座りながら頭を下げて項垂れた。

「貴方さえいなければすんなり名前と付き合えてたかもしれないのに...」
「クズだな。二股かよ」
「貴方にそれを言われたくはないです。それに二股じゃありません。元カノとは別れていますし名前とも付き合っていません」
「でも元カノとセックスしてる」
「元カノをセフレにして何が悪いんですか?」
「お前名前ちゃんがそれを聞いてどう思うと思う?」
「.........」
「どうしようもない男だな」

白澤は呆れたように座って宙を見つめた。


その頃名前はというと...

男は再度名前の口元を縛り上げた後、リビングへと戻って行った。
名前は顔を振り切って口の布を取った。
服を脱がされたせいで肌寒い。
これから犯されるのだろうか、と考えてゾッとし、必死にもがいて縛られている腕を取ろうとした。


白澤はしばらく宙を見つめていたが、とある写真を見て眉を寄せ、それを手に取った。

「昨日の夜、お前と名前ちゃん以外に誰か部屋にいた?」
「まさか。いるわけないでしょう」
「...もう一人いる」

白澤は鬼灯に写真を投げ、鬼灯は注意深く写真を見つめた。
写真には窓越しに知らない男が写っている。

「...知らない男ですね...」
「...見ろ」

白澤が冷や汗をかきながら時計を指差した。

「時間切れだ」

男は時計が6時を指したことを確認すると、モニターを切って名前の元へ歩いて行った。
やっと腕の縛りが取れた名前は足音に気付き、口の布を戻して手を後ろに回して何でもないようなフリをした。

「時間切れだ。鬼灯先生は失敗したよ」
「.........」
「俺はやるべき事をやらないとな。...しくじったとお前が伝えろ」

男は名前の口の布を取って携帯を押し耳に押し当てた。

再びバスルームで着信音が鳴り響いた。
鬼灯は顔を歪めて携帯を手に取り、電話に出た。

「誰だか知らないが名前を離せ!!」
『...鬼灯?』
「名前?」
『しくじった』
「は?」
『うああああああ!!』

鬼灯の耳にガタン、ドタン、バタン、といった暴れるような音が届いた。

名前は男の手に噛み付き、銃を手放した隙に奪い取って銃口を男に向けた。

「動くな!!」

男はそう言われぴたりと動きを止め、両手を少し上げた。

「携帯を渡して」
「.........」
「早く!」

男は言われた通りに名前に携帯電話を投げた。

「......鬼灯っ...」
『名前!大丈夫ですか!?』
「大丈夫じゃないよ...!」

男がじりじりと名前に近付いてくる。

「動くな!伏せろ!」

再び男が動きを止めた。

「ねぇ、どこにいるの...!?」
『分かりません...どこかに監禁されています』
「そんな...」
『すみません...全て私のせいです...』
「早く帰ってきてよぉ...!」
『貴女といれて幸せでした』
「そんな最後みたいな言い方しないでよぉ!!」

名前がぶわ、と涙を溢れさせた途端、男が名前に飛びついた。

『いやあああああ!!!』

鬼灯の携帯から悲鳴と、銃声と、揉み合うような音が聞こえた。

「.......っそんな.....」

鬼灯はあまりの絶望感に床に伏せて、悔しそうに床を殴った。


揉み合った末に名前は銃を取り返し、鬼灯のベッドシーツを掴んで外へと逃げ出した。

「そんな格好でどこ行く気だよォ!?」

名前は通行人に裸を見られている事も気にせず、一番近くにある交番まで全速力で走り続けた。

「助けてください!!」
「どうしたんですか!?」


鬼灯はしばらく床に伏せていたが、突然ムクリと死んだような顔で起き上がり、乱暴にシャツを脱ぎ始めた。

「おい、何してんだよ」
「うるさい」

そして脱いだシャツを脹脛に巻きつけ、血が止まるほど強く縛った。

「おい...!」
「名前が助けを待っているんです」

そして歯を食いしばりながら、近くにあったノコギリを手に取って足を切り始めた。

「おい!!やめろって!!!」

鬼灯は左手と口でシャツを掴み、足元を強く縛りながらノコギリを動かし続けた。

「何やってんだよ!!!正気かよ!!」
「っ....!、ぐ...!!」
「おい見てらんねぇよやめろよ...!!」

白澤はあまりの光景に頭を抱えて後ろを向いた。
しばらく悶え苦しむような声が響いていたが、やがてカランとノコギリが転がる音がして白澤が振り向くと、元々白いのに血の気を失って更に顔を白くした鬼灯がいた。
顔には冷や汗か脂汗か、汗がたくさん滲んで滴っている。

「お前死ぬんじゃねえの...」
「ここで死ぬよりマシです...」

そして念の為と足を持って出口の方へ這っていった。

「おい!助け呼んでくれよ!?」
「気が向いたら呼びます...」
「なんて奴だよ...」

白澤はその痛々しい姿を見つめ、一人になった寂しさから膝を抱えて座り込んだ。



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