灰かぶり(幸村精市)



夕方の誰も居ないはずの教室から
綺麗な歌声が聞こえた。

教室を覗くと、ひとりの女子生徒がびしょびしょに濡れた床を拭いている。
まるでシンデレラのように…
手伝おうと無言で近づいた俺に気づいた彼女は、

「…来ないで」

と悲痛な顔をしながら、か細い声で言った。

「俺のせいなんだろ?」

俺が軽い気持ちで“可愛いね”なんて君に言ったから、
君は継母たちにいじめられているのだろう…

俺が近づくほどに嫌がる君を無理矢理に抱きしめて、

「ごめん」

と謝ると、
君の顔は見る見るうちに泣き顔に変わる。

「…麗花は俺が守るから」

途端に、君は俺の胸で泣き崩れた。
彼女の泣き声は、俺達2人だけには広すぎる教室にいつまでも悲しく響いていた。


俺は君のために魔法使いになろうと思ったけど

やめた

今すぐガラスの靴を持って君を迎えに行くよ



…シンデレラ。



*END*

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