うみへ/約束(仁王雅治)



ガラガラとスーツケースを引く音がやけに煩く感じた






お前さんと話している他愛もない会話も
今は全く耳に入らない





「ねぇ仁王聞いてる?」






首を傾げて尋ねられたが俺は、ああ…と返事をするだけだった



その様子を見たお前さんはクスリと笑うと
嬉しそうな顔で悪戯に言った





「…私が居なくなったら寂しくなっちゃう?」

「……」





こんな事を言っている自分自身も本当は寂しいんだろう



初めて留学の話を聞いた時は驚いた
これからずっと一緒に居れると思っとったからの…





「今日、行くんじゃな…」





俺が真剣な目で見つめれば、お前さんの目は涙で潤んできた




「や、やだなぁそんな顔しないでよ!」




無理に笑っている姿




「なにも一生の別れじゃないんだし…」




それはまるで自分自身に言い聞かせているようだった





「…心配なんじゃ」


「……何が?」


「華子が他の男に取られるんじゃないか…ってな」


「…!!」




途端に華子の目から大粒の涙が溢れてきたが、溢れ出るそれを必死に拭っていた




「…あれ?…あれ?
泣かないって決めたのにな…」




微かに震えている声で、それでもまだ明るく振る舞おうとしている




「どうした?」




そっと人差し指を当ててその涙をすくいながら尋ねる




「…嬉しかったの」


「ん?」


「仁王も同じ気持ちでいてくれてるんだって分かって…」





そう言ってはにかみながら笑う




「だって仁王モテるからさぁ〜」




ハハハ…と悲しそうに笑うお前さんの顔は見るのも辛くて
俺は華子の頭に手を置くと、大好きなその髪を優しく撫でた




「仁王…?」


「……愛しとる」


「っ!!仁王!!///」




驚いたことに珍しく向こうから抱きついてきた
それが嬉しくて、俺は力一杯華子を抱きしめ返す





「華子…」





何度も何度もその愛おしい名前を呼んだ




小さく嗚咽が聞こえる
俺は華子の顎を持って上を向かせた






「大丈夫か…?」

「うん…」





そのまま額をくっつけて見つめ合った




「「……」」





華子に触れたくて、更に顔を近づける




「仁王…」

「ん?」

「ここ公共の場」

「……」






…忘れとったぜよ




心の中で軽く舌打ちをすれば、どこからか
ママーあのおにーちゃん達何してるの?という声が聞こえる



仕方なく頬に軽くキスをした



華子は満足そうに笑うと
軽く手を上げて言った



「じゃあ…お見送りありがと!
残念だけど仁王はここから先に入れません!」




気づけばゲートが見えていた




この先に華子の向かう海外が繋がっていると思うと不思議じゃ…





「待っとる」

「うん。約束だよ!」





お前さんが元気に戻って来てくれればそれでいい
それがたった一つの願い



その笑顔を帰って来た時にまた見せんしゃい…華子



スーツケースを引きずりながらお前さんは明るい未来に向かってゲートをくぐる







「…約束ぜよ」











その背中にそっと呟いた






*END*

Back Top








人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -