エール(幸村精市)



「良い気持ち〜」

体の火照りを冷ます為にベランダに出ると、外には綺麗な星空が広がっている。
静かに物思いにふける事が出来るから、
お風呂に入った後のこの時間が私は何よりも好きだった。

「…明日…か」

不安を呟けば

「そうだね…」

不思議なことに夜空から返事が返って
…くる訳がない。

「…何でいるの?」

家の前には何食わぬ顔をして微笑んでいる幸村が居た。

「たまたま通りかかったら、感傷に浸ってる人を見つけたんだ」

「馬鹿にしてる?」

「フフッ…さぁ?」

意味深に笑う彼に苛立ちを感じ、嫌みを込めて言い返す。

「もう遅い時間だよ、この不良!」

「それは酷い言い方だなぁ。俺はただコンビニに行ってただけなんだけど」

コンビニ袋を少し持ち上げて
わざとらしく悲しい表情を作っている。

「はいはい、わかったわかった…風邪引いたら困るから早く帰りなよ!」

「…そうだね、そうさせてもらうよ」

じゃあ…と手を上げて帰って行く背中は直ぐにピタリと止まると振り返る。

「そうだ…麗花。明日の試験、健闘を祈ってるよ」

「……」

コンビニ袋の中に入っていたのは普段読みもしない週刊少年雑誌。
そして、この時の真剣な目…

「…バーカ」

いくら馬鹿な私でも分かる
幸村が私を励ます為に来たんだってこと。

「フフッ…お休み」

「…うん」



なんだか明日は上手くいく気がした。



*END*

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