直ちゃんへ/幸せの猫(芥川慈郎)



そこは



見渡す限りの白い世界



足の裏からはふわふわとした感触が伝わり
お日様に抱かれたような匂いと暖かさに包まれていた





ニャー





突然、鳴き声と共に一匹の猫がぴょんと私の前に現れた



あっ…あの猫は!!



猫は私に気づくと一目散に逃げ出した



待って!!



私は必死に追いかけた



お願い!待って!!



けれど、走っても走っても猫には追いつかない



待って!…待って!!…待って!!!………



「…って…待って!…待って!!!」



ゴツン



「イタッ」



激しい痛みで私は目を覚ました



「イタタタタ〜…」



おでこがジンジンする…
どうやら側にあったベンチにおもいっきりぶつけたようだ




なんで地面で寝てんだろ…





そんなことを思いながらおでこに触れると少し出っ張って熱を持っていた





「はぁ〜…って、そういえば!!
猫!猫!猫はどこ?」




大事なことを思い出し、さすっていた手を止めて
綺麗に生えている芝生に這いつくばりながら猫の姿を探した




けれど、猫の姿はどこにも見当たらない





「なんでいないの〜…」





大きなため息をついてしゃがみ込んだ


やっぱりいないのかな…


がっかりと肩を落としていたら





「キミ、何を探してんの〜?」





突然、後ろから声が聞こえた




振り返ると
眠そうな目を擦りながら私を見ている人がひとり芝生の上に寝そべっていた



「ジロー!?」

「…って、華子じゃん!!超久しぶりー!!」



そう言って、眠気眼が嘘のように消えると目をキラキラさせながら私に抱きついてきた



「ちょっ!…///」

「マジマジ!?すっげー!うれCー!!」



私がすっげーうれCーんですけど…///



「中学に入ってから全然会えなかったもんね」





そう言ってよしよしとジローの頭を撫でて落ち着かせた
いつまでも抱きつかれていたら恥ずかしくて私が死んでしまう///





「そうそう。直が会いに来てくれなくて寂しかったC」

「それは!…ジローがテニス始めてから学園中の人気者になっちゃったから…
だから…」




私はただの普通の生徒
でもジローは違う
昔はあんなにそばにいたのに今は雲の上の人…



だから会いに行くこともしちゃいけないような気がしていた



考えてたら悲しくなってきて
涙が出そうだったから下を向いた



「華子…」



ジローは悲しそうな顔をすると
よしよしと私の頭を撫でた


ジローの優しさが心に染みる





「ところで、華子はこんなとこで何を探してたの?」

「…猫」

「猫?」

「うん。幸せになれるって噂の“幸せの猫”を探してるの」

「…!!」



ジローは私の言葉を聞くと
急に真剣な目をして私を見た



「華子はさ…その猫を見つけたらどうするの?」

「えっ…?」



いつになく真剣な眼差しのジローにドキドキしながらも
なんと返事をしたらいいのかわからず戸惑ってしまった



「わ、私は…
その猫に少しパワーをもらいにきたの」

「パワー?」

「うん。…幼い時から好きだった人に告白する勇気をね///」



片思いなんだけどさ…そう付け足してハハッと苦笑いをした



「そっか…」



ジローはなんともいえない複雑な表情で
華子の願いなら…と小さく呟きながらポケットに入れていた手を外に出した



「…鈴?」

「うん。そうだよ」



ジローはそう言うと、赤い紐のついているそれを少し揺らした


チリン…チリーン…



よく澄んだ綺麗な音色だった



ニャー



すると、どこからか鳴き声と共に一匹の猫がぴょんと現れた



…あっ!あの猫は!!



「おいで!」



ジローがしゃがんで両手を広げるとその猫は尻尾をピンと伸ばしながらジローの腕に近寄った



「そ、そそそそその猫は!」



興奮のあまり口が上手く動かない



「華子は面白いねー」



ジローはククッと笑うと抱いていた猫を芝生の上に放した




「幸せの猫!!」


「正解♪だけど、実はそれ間違いなんだけどね〜」


「えっ…?」


「“幸せな猫”っていうのが本当だCー」





そう言ってニッと笑った





「ほら、華子も見てみなよ」




ジローは芝生の上で気持ちよさそうに伸びをしている猫に視線を向けた




「…ほんと、アイツすげー幸せそうだC」




猫を見つめるジローはとても優しい眼差しをしていた


薄茶色の毛をした猫は日だまりの中ゴロゴロと喉を鳴らしながら寝転がっている
太陽の光に照らされた猫の毛がキラキラと輝いていてとても神秘的な光景だった



「アイツさ…数ヶ月前にこの中庭に捨てられてたんだよね」



この猫をたまたま見つけたジローが
“幸せな猫”と名前をつけて可愛がっていたということ
それがいつのまにか学園中で
“幸せの猫”がいると噂になっていたこと
その噂を聞きつけた誰かが欲のためにこの猫を傷つけたこと
だからこの猫をこっそりと世話をすることにしていたということ

ジローは今まで何があったのかを事細かに説明してくれた



「そうだったんだ…」



事情も知らずにこの猫を探していた自分が急に恥ずかしく感じた
と同時にこの猫を怖がらせていたかもしれないという申し訳ない気持ちで一杯だった



「ごめんね…」



私は恐る恐る近づいてきた猫の頭を優しく撫でながら謝った



「…でも、“幸せの猫”っていうのも間違いじゃないかもね〜」



そう言ってジローは私を見つめた



「えっ…?」



ドクン…



「こうしてまた華子と話せたんだもん」

「ジロー…///」



ジローはヘヘッと笑うと
大きなテニスバックを背負って立ち上がった



「じゃあそろそろ部活に行くね
早く行かないと跡部がうるさいからさ〜」



そう言って手をヒラヒラ振ると私に背を向けて歩き出した
猫もジローの後にくっついて一緒に歩き出した



どうしよう…


このままじゃ、また遠くに行ってしまう…


早く…早く伝えなきゃ…



ニャー



へっ…?



“幸せな猫”が私を見て鳴いている



ニャー



頑張って…勇気を出して…
そう言ってくれているような気がした



…そうだよね!



「ジロー!!」



私はありったけの声で叫んだ



「ん?」

「大好きだーっ!!!///」

「…マジ!?」

「うんマジ!///」

「…俺も!!」



ジローはそう叫ぶと両手を広げて私を見た



「おいで!華子!!」



私は大好きな彼のもとに駆けていった





*END*

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