片羽(仁王雅治)



真夏の暑いコンクリートの上で片羽のもげた蝶がもがいてる。
私はただそれを見ていた。

「……」

可哀想とは思わない。
だって、

「…アナタも私と同じ」

私の影法師でアナタを覆ってあげる。
これで少しは涼しいでしょう?

「アナタはその羽を誰に取られたの…?」

問い掛けてもただもがくばかりの蝶に私は語り続ける。

「私の羽はね…」

「…誰に?」

「えっ!?」

突然の声に顔を上げれば、見慣れた顔が見えた。

「誰に取られた?」

「何よ…あなたには関係ないでしょ…」

「大ありじゃ」

彼はゆっくりと私にその端正な顔を近づける。

「俺は…お前さんに羽を取られたんじゃからな」

そう言ってフッと微笑んだ顔は悲しげに見えた。

「……」

「…恋人か?」

「っ!!」

全部見透かしたようなその瞳が私を見ていて、
彼の大きな手は私の頭を優しく撫でていた。

「な…何よ…何よ何よ何よ!!」

自然と溢れる涙。

「私はあなたを前に振ったのよ!?今更私に優しくする義理なんて無いでしょ?」

言ってはいけない言葉。

「自分が傷ついた時にだけあなたに頼るなんて…私最低じゃない…」

けれど、彼は怒ることなく私の言葉を聞き入れて
私を優しく抱き寄せた。

「…それでも…そんな最低な海を俺は好いとーよ…」

耳元で響く彼の声に私は涙が止まらなかった。

「俺は一体どうしたらええ…?」

私にもあの蝶のように諦めずに羽を広げることが出来るだろうか。
もう一度空を飛びたいと願っても良いのだろうか。

「……」

どうか、最低な私の最低な願いを聞いてください…

「…もう少し胸を貸して」



*END*

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