I am happy today!(丸井ブン太)



It is raining today…






「最悪…さっきまで小雨だったのに」

そう言って灰色の空を見上げた。
私が帰るのを見計らっていたんじゃないかって思うくらいのタイミングで
雨粒は滝のように音を立てて地面に落ちていた。

春先とはいえ、雨が降る夜に近い夕方。
ワイシャツだけでは肌寒くなり、スクールバックからブレザーを取り出していると、

「空!!ちょうど良かったぜぃ!傘に入れてく…れ…」

ひとりの男子が駆け寄ってきた。

「…え?」

大きな目をぱちぱちさせて暫く私を見つめると、
真っ赤な髪に手を当てて大きなため息を漏らした。

「なんだよ、お前も持ってないのかよ〜」

「だって朝降ってなかったじゃん」

「ニュース見とけ!今日は夕方から雨だって言ってただろぃ」

「なによ!ブン太だって持ってきてないくせに」

「うるせぇ!俺はお前に入れてもらおうと思っ…」

不意打ちの言葉に心臓がドクリとなった。
驚いて目を見開き、一気に頬に熱が集まる。

「いや、なんでもねぇ…」

ハッとした表情をすると、ブン太は慌てて私から目を逸らした。

暫くの沈黙に雨の打ち付ける音が響いていた。
お互いなんとなく気まずくて、今はこのうるさい音がとても助かった。
だけど、このままじゃ駄目。何か話そうと頭をフル回転させて口を開いた。

「…部活もう終わったの?」

「ん?今日は雨だから筋トレだけだったんだよ。お前こそこんな時間に一人で何してんだ?」

「委員会。だから友達も帰っちゃってひとりでさみしく雨が止むのを待ってたの」

「なるほどなー」

いつも教室でとりとめのないくだらない話をするだけだった。
でも、毎日話すうちに、いつしかブン太は私にとって特別な存在に変わったんだ。

「…なんか元気無いね」

「あ、分かるか?ガム切れちまってよ〜」

(分かるよ…だって私、ブン太の事…)

ブン太はさっきよりも大きなため息をすると、
力無く項垂れてしゃがみ込んでしまった。

「空、ガム持ってねぇ?」

おねだりする小さい子の目をしたブン太を見てまたも心臓が飛び跳ねた。

「あいにく持ってません」

実は持ってたりする。
いつからかブン太が私にガムをおねだりするようになってから
コンビニで風船ガムを見かける度に買っていた。
だけど、今日はなんだか悔しくて、嘘をついた。

ブン太は、ふ〜ん鼻を鳴らすと

「…持ってんだろぃ?」

私の顔を覗き込むようにしながら自信たっぷりの目で聞いてきた。
そんな顔を見せられたら、白旗を揚げるしかない。
ずるいよ…と思いながらも、私はスクールバックのチャックを開けた。

「もーしょうがないなぁ。はいコレ」

そう言ってグリーンアップル味のガムを手渡す。

「やったぜぃ!!サンキュー☆」

「…ど、どういたしまして」

幸せそうにガムを口に入れるブン太。
それを目の前で見れる私が幸せだと思った。






どれくらい待っただろうか、けれど雨はいっこうに止みそうにない。
ブン太の風船が膨らんでパチンと割れる。

「走るか…」

空を眺めていたブン太がポツリと言った。

「えっ!?何言って…」

「ほら行くぜ♪」

グィっと手を引っ張られ、どしゃ降りの雨の中に入れられた。

「空!駅までダッシュだ!」

「ちょっ、ちょっと〜!」



どしゃ降りの冷たい雨

繋がれた暖かい手

ほのかに香るグリーンアップル



少しだけ雨が好きになれた。



*END*

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