不思議の国の(仁王雅治)



学校から少し離れた所に広がる広大な緑地は私の癒やしの場所だった。

「ふぅ…」

疲れた時には決まってひとりでここに訪れていた。
爽やかな秋風に揺られている木々を眺めているだけで自然と心が安らぐのだ。

「ちょいと隣失礼するよ」

そう言って突如現れたのは地元の老夫婦だろうか、
よっこいしょの掛け声と共にゆっくりと私の隣に腰掛ける。

「…彼氏とのメールかい?」

そのおじいちゃんに突然、握っていた携帯をにこやかに指をさされた。

「へ!?」

「ちょっとあなた!余計なこと言わないの!!」

「ははは!まぁ良いじゃないか」

突然のことに上手く返事が出来ない。

「あ、あの…」

「なーに気にすることはない。君ぐらいの年頃の子は当たり前に居るんだからな!」

「は、はぁ」

まだまだ喋り続ける夫を見かねてか、
呆れた素振りを見せたおばあちゃんはおじいちゃんの袖を引っ張る。

「もう!これ以上邪魔しないの!!」

「はいはい、わかったよ」

そう言って少し不機嫌そうにおばあちゃんを見やると、
じゃあのと言って2人で歩いて行ってしまった。

「…素敵な夫婦だなぁ」

何かを楽しそうに会話している老夫婦の後ろ姿。
いくつになっても2人で楽しそうにしてるなんて素敵…

それにしても

『君ぐらいの年頃の子は当たり前に居るんだからな!』

さっきからこの言葉が心の中でこだましてしまう…

(ははは…実は居ないんだけどなぁ、彼氏)

なんだか、気持ちの良かった風も今は酷く冷たく感じる。

「当たり前…か…」

せめて、好きな人でも居れば良いのだが、今はそれさえも無かった。

「……」

(じゃあ、次に私の隣に座った人を好きになろうかな!…なんてね)

そう心の中で独り淋しく冗談を言っていたら、

「隣、失礼するぜよ」

突然語尾に特徴のある声が聞こえた。

「へ!?」

突然のことに、私はまたまた口が上手く動かない。
声の主を見るとそこには銀の髪色をした青年が立っている。

「……」

(き、綺麗な人…)

「…俺の顔に何か付いとるんか?」

「い、いえ!」

「あ〜邪魔したみたいだから他に行くナリ…」

「あっ!待って!!…ください」

それはまるで、ウサギを見つけたアリスの気分。

「ん?」

ちらりと時計を見やるウサギは今にも何処かへ行ってしまいそうだった。

「あ、あの〜よかったら少しお茶しませんか?」

「ここでか?…お茶も無いのに?」

うっと言葉に詰まった私の顔を見るなり、ウサギは銀の毛並みを揺らしながらニ
ヤリと口の端を吊り上げた。

「…いいぜよ」

その妖艶な笑みは一生夢の国から出られなくてもいいかもしれないという錯覚を
起こさせるには十分すぎる。

「さて、素敵なティータイムでも始めるとするかの…」



*END*

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